コラム
Column
2024.09.19
【SBTとは】基本概念やメリット、ネットゼロ基準まで詳しく解説
地球温暖化抑止のためのGHG (温室効果ガス) 削減は世界的潮流です。もはや企業の経営戦略において気候変動対策を欠かすことはできません。
SBT(Science Based Targets)は科学的根拠に基づいたGHG (温室効果ガス) 削減を推進するための指標であり、多くのグローバル企業が取り組んでいます。主な重要性と基本概念は「パリ協定の目標を達成するために、GHG 排出量を 2030 年までに半減し、2050 年までに実質ゼロにする」ことです。
本記事ではSBTが設立された背景やメリット、認定条件やネットゼロ基準まで企業として知っておくべき内容を網羅して解説します。
目次
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SBT(Science Based Targets)とは?
SBTとは「Science Based Targets」の略であり、日本語では「科学と整合した目標設定」になります。SBT指標では、企業が最新の科学知見に基づき地球温暖化抑止の目標を設定するため、GHG削減の明確な道筋を得られます。これらはパリ協定の目標に沿うため、企業が排出量をどれだけ、またどのくらいのスピードで削減しなければならないかを定義したものです。
また、SBTの認定を取得することで企業はネットゼロ経済や自社のイノベーションを促進することができます。そのためSBTは、持続可能な経済成長へと繋げるための国際的な指標と言えるでしょう。
「科学と整合した目標設定」とは、パリ協定での「地球温暖化を産業革命以前のレベルより1.5℃に制限する」という目標に一致しているかどうかです。
SBTは以下の4つの機関で運営されています。
・CDP
・UNGC(国連グローバルコンパクト)
・WRI(世界資源研究所)
・WWF(世界自然保護基金)
SBTの国際的な背景とパリ協定
SBT指標が策定された背景にはパリ協定が大きく関わっています。パリ協定とは、「COP(国連気候変動枠組条約)21」にて採択された国際的な取り組みです。
「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃以内に抑える努力をする」という、GHG排出削減に向けた取り組みを明文化したことで「歴史的な合意」と注目されました。これにより世界のGHG削減活動は加速したのです。
企業から見たSBTのメリットとは
SBTには企業にとって次のようなメリットが存在します。それぞれの視点から詳しく解説します。
・環境貢献と企業価値の向上
・ESG投資に有効
環境貢献と企業価値の向上
経済的な利益を優先して地球環境にこれ以上負荷をかけることはできません。「国連環境計画(UNEP)」の報告では、「世界は未だパリ協定の目標達成には及ばず、1.5℃に向けた信頼性の高い経路に乗れていない」と言われています。
SBTの取得は気候変動問題を積極的に解決することに繋がり、環境に対して大きく貢献が可能です。
またSBTは企業に対して野心的な削減目標設定を促します。それにより企業の省エネや再エネ推進、そして画期的なイノベーションの創出を図り、企業価値を向上させます。
ESG投資に有効
国連は2006年に「PRI(責任投資原則)」を発表し、ESG投資を促進しています。ESGとは「Environment Social Governance」の略です。経済的な利益に重きを置くのではなく、環境活動や社会的意義の高い企業に対して積極的な投資が行われるもので、近年市場が拡大しています。
SBTは気候科学に基づく「共通基準」で評価・認定された目標であるため、「パリ協定」に整合していることが伝わりやすいのが特徴です。
そのため消費者やステークホルダーに広くアピールが可能で、投資家の注目を集めます。ESG投資家に将来性のある企業として注目されることは、ESG投資の呼び込みに有利といえます。
SBT認定のための認定条件・基準と手順
SBTに参加し認定を取得するための認定条件や、認定取得方法の手順をわかりやすくご紹介していきます。
SBT認定の条件
SBTの認定取得には以下のような条件が定められています。
条件項目 | |
---|---|
1 | 「産業革命以降の気温上昇を、2℃未満もしくは1.5℃未満に抑える」というパリ協定に 整合したGHG排出削減目標を定めなくてはならない |
2 | 毎年2.5%以上の削減を目安として、5年〜15年先の目標を設定する |
3 | 自社だけではなくサプライチェーン全体でのGHG排出量の削減を実施する |
4 | 認定取得後も目標の妥当性の確認や対策状況の報告を行う |
5 | 他のカーボンクレジットの取得による削減等は、SBT達成の削減に加えることは できない |
SBT認定までの手順
SBT申請には次の6つのステップが必要です。
申請の流れ | 補足事項 | |
---|---|---|
1 | Commitment LetterをSBTの事務局に提出(任意)する |
2年以内にSBT設定するという宣言を行う SBT事務局、CDP、WMBのウェブサイトにて公表する |
2 | 目標を設定し申請する | Target Submission Formを事務局に提出する |
3 | SBT事務局による目標の妥当性確認・回答(有料)が行われる | 事務局は認定基準に沿っているかを審査し、メールで回答を行う |
4 | 認定を受けた場合はSBT等のウェブサイトにて公表する | Target Submission Formを事務局に提出する |
5 | 排出量と対策の進捗状況を、年一回報告し、開示する | |
6 | 定期的に、目標の妥当性の確認を行う | 必要に応じ目標を再設定し、最低でも5年に1度は再評価を行う |
日本の業種別SBT認定企業一覧
2024年度のSBT認定を取得した日本企業を業種別に一覧にまとめました。認定取得済の企業は904社にも上ります(2024年3月1日時点)。
この他にも不動産や医薬品、陸運、情報通信等、参加している業種は多岐に渡ります。また大手企業ばかりではなく中小企業も多く参加していることが特徴です。
業種 | 企業名 |
---|---|
建設業 | 安藤・間/熊谷組/ジェネックス/清水建設/住友林業/積水ハウス/大東建託/大成建設/大和ハウス工業/高砂熱学工業/東急建設/戸田建設/前田建設工業/LIXILグループ |
食料品 | アサヒグループホールディングス/味の素/カゴメ/キリンホールディングス/サントリー⾷品インターナショナル/サントリーホールディングス/⽇清⾷品ホールディングス/⽇本たばこ産業/不⼆製油グループ/明治ホールディングス/ロッテ |
化学 | UBE/花王/コーセー/小林製薬/三甲/資生堂/住友化学/積水化学工業/高砂香料工業/ファイントゥデイ/DIC/富士フイルムホールディングス/ポーラ・オルビスホールディングス/ユニ・チャーム/ライオン/ロックペイント |
小売業 | J.フロントリテイリング/アスクル/イオン/上新電機/ファーストリテイリング/ファミリーマート/丸井グループ/ユナイテッドアローズ |
電気機器 | アズビル/アドバンテスト/アンリツ/岩崎通信機/ウシオ電機/ EIZO/エスペック/沖電気工業/オムロン/カシオ計算機/キャノン/京セラ/コニカミノルタ/シャープ/新電元工業/SCREENホールディングス/セイコーエプソン/ソニーグループ/デンソー/TOA/東京エレクトロン/東芝/ニチコン/日新電機/日本電気/ パナソニックホールディングス/浜松ホトニクス/日立製作所/ファナック/富士通/富士電機/ブラザー工業/三菱電機/村田製作所/明電舎/安川電機/横河電機/リコー/ルネサスエレクトロニクス/ REINOWAホールディングス/ローム |
出典:環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「SBT 詳細資料」
SBT取得の企業事例のハイライト
ここではSBT認定を受けた企業の事例をご紹介します。
積水ハウス株式会社
積水ハウス株式会社は、2023年にSBT認定を取得しました。取り組みとして「積水ハウス オーナーでんき」によるCO2排出ゼロの電力調達を行い、国内全生産工場で使用する電力の 78.7%を賄いました。その他にもZEB基準建築物入居促進、業務用車両の電動化の努力を実施。
その結果、2022年度のScope1、2のGHG排出量は従来のSBT目標である2013年度比50%削減を達成。さらに削減目標を75%引き上げるという野心的な目標を設定しています。
出典:積水ハウスニュースリリース「温室効果ガス削減で「SBTイニシアチブ」1.5℃目標の認定を取得」
富士電機株式会社
富士電機株式会社は、「2030年度の生産時温室効果ガス排出量 (Scope1+2) を2019年度比46.2%削減」、「2030年度のサプライチェーン温室効果ガス排出量 (Scope3) を2019年度比46.2%削減」という目標で、2022年度SBT認定を取得しています。
2019年には環境活動の長期的な方向性を示した「環境ビジョン2050」を策定。エネルギー・環境事業で、安全・安心で持続可能な社会の実現に貢献していくことを掲げています。
出典:富士電機株式会社ニュースリリース「温室効果ガス排出削減目標のSBT認証の取得について」
SBTネットゼロへの取り組み
ネットゼロとはGHG排出量を、吸収量や除去量と相殺し「実質ゼロ」にすることです。脱炭素化が推進されるにつれ、世界でも国内でも企業は「ネットゼロ」目標を掲げるようになりました。
しかし、共通の定義に従っていない「ネットゼロ」は一貫性がなく影響は限定的で、パリ協定の目標達成に貢献できるのかもわかりません。そのためSBTは2021年にネットゼロを推進するための基準を策定しました。
ネットゼロの概念と目標設定
前述したようにネットゼロとは「GHG排出量を、吸収量や除去量と相殺し実質ゼロにすること」です。同義の用語に「カーボンニュートラル」があります。
企業の事業活動において、できるだけGHG排出量を減らす努力を行い、どうしても減らせない部分をさまざまな方法で大気中から吸収・除去し、「実質ゼロ」に中和します。
SBTでは、ネットゼロ目標の基準が定められています。ここでは企業の取り組みに対してポイントとなる5つの基準をご紹介します。
【SBTネットゼロ基準5つのポイント】
1 | 対象範囲 | サプライチェーン全体での排出量削減 Scope1.2.3すべてを含む |
2 | 総量削減目標の設定 | 削減の水準は指定されていない |
3 | 中間目標設定 | SBTの認定目標5~15年を設定する |
4 | GHG排出量の中和(ニュートラル)化 | Scope1.2.3のGHG排出量の中和化の 目標設定を行う 算定方法はGHGプロトコルに準拠する |
5 | 補償 | カーボンクレジット購入や脱炭素 プロジェクトへの資金援助等による 緩和措置 |
ネットゼロ企業事例
ネットゼロに取り組んだ三菱地所株式会社の事例をご紹介します。
三菱地所株式会社
三菱地所株式会社は、脱炭素社会の実現に向けて 2022 年度SBT ネットゼロの認定を日本で初めて取得しました。具体的な取り組みとして、丸の内・首都圏の保有ビルを中心に再生可能エネルギーの導入を行い、2021 年度のスコープ 1、2 を合計したGHG排出量を 2019 年度比で 34.5%削減に成功しました。
三菱地所株式会社は、2030 年度までに スコープ 1、2 の合計を 70%以上、スコープ 3 を 50%以上削減、さらに2050 年までに ネットゼロ達成という目標を掲げています。
出典:三菱地所株式会社「CO2 等温室効果ガス排出削減目標について日本初 SBT ネットゼロ認定を取得」
まとめ: SBTとネットゼロ目標がもたらす将来価値
SBTとネットゼロ目標は、企業に対して次のような大きな将来的価値をもたらします。
長期的なビジョンと企業成長の両立
ESG投資の拡大にもみられるように、企業は利益を追い求めるだけではなく、持続可能な社会実現への貢献が求められています。
SBTへの取り組みは企業の負担となるものではなく、むしろビジネスチャンスと捉えるべきです。長期的なビジョンは、生産性の見直しや新たなイノベーションを生み出すことに繋がり、企業を大きく成長させてくれるでしょう。
今後の展望と企業に求められる行動
日本では、カーボンニュートラル実現のために産業政策として「グリーン成長戦略」が打ち出されました。エネルギーや製造、輸送等の14の産業分野で脱炭素化のイノベーション促進を図るために、2兆円のグリーンイノベーション基金が設置されています。
先に述べたように企業の脱炭素化は大きなビジネスチャンスと言える時代を迎えています。企業は経営戦略に気候変動対策を盛り込み、乗り遅れることなく動くことが重要です。国際的なGHG排出量削減の指標であるSBTに取り組むことは、国内の施策を推進するのにも非常に有効です。
企業担当の方は本記事を参考にSBT認定の取得を自社で検討し、脱炭素化を目指してはいかがでしょうか。
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