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2025.05.28
【電力市場のプロが解説】インバランス制度とは?算定インデックス価格の変更にどう対応していくべき?
電力小売事業者や発電事業者にとってインバランス制度を理解することは、インバランスから生じるコストを最小限に抑えるために極めて重要です。そんな中、2026年度からインバランスの算定インデックス価格の変更が検討されています。
本記事では、インバランス制度やその変更内容についてや、インバランスコスト低減に向けた最新戦略について詳しく解説します。電力市場のプロフェッショナルとして、最新の手法や技術を活用したインバランスコストの軽減策を概観し、直面する課題を解決するための有益な情報を提供します。
目次
- インバランス制度とは?その仕組みと目的を解説
- インバランス制度の目的と背景
- 電力需給のバランス維持の重要性
- 再生可能エネルギーの普及による制度改正の影響
- インバランス料金の仕組みと算定方法
- 2026年度インバランス上限値引き上げとその影響
- 改正の概要と背景
- 2026年度から補正インバランス料金の上限価格は引き上げ
- 事業者への影響とリスク増大の可能性
- インバランス料金の急騰リスク
- 計画精度への要求水準の引き上げ
- インバランスリスク管理の重要性
- 小売電気事業者に求められる能力
- 需要・発電計画の精度向上
- 市場動向のモニタリングと予測
- 調整力の確保と予備率の管理
- 最新のインバランスリスク管理戦略
- AI活用によるリスク軽減
- 事業者間の連携によるリスク分散
- FPSの需給管理能力
- FPSが持つ高度な需給管理能力とは
- FPSが有する電力トレーディング機能とは
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インバランス制度とは?その仕組みと目的を解説
インバランス制度は、電力市場において需要と供給のバランスを維持するための重要な仕組みです。
インバランスとは、「計画した電力量(需要・発電)と実際の電力量(需要・発電)との間に生じた差分」のことです。
具体的には、小売電気事業者は自社の顧客の需要量を予測し、その予測に基づいた電力調達をします。一方、発電事業者は自社の発電設備の卸売量に基づき発電計画を策定し、計画に基づいた正量を発電しようとします。「需要(発電)計画」と「需要(発電)実績」の差分(インバランス)に対し、一般送配電事業者から請求や支払いが行われるのがインバランス料金です。小売電気事業者等は、需要(発電)計画と需要(発電)実績の間に差異が発生した場合、不足した電力量の補填や余剰となった電力量の買取が発生するため、内容に応じて一般送配電事業者とインバランス料金を精算する必要が生じます。
インバランス制度により、電力市場全体のバランスが崩れないように需給調整が行われ、電力供給の信頼性が高まっています。
インバランス制度の目的と背景
電気には「同時同量」という原則があります。
電気をつくる量(供給)と電気の消費量(需要)が常に一致していなければ、電気の品質(周波数)が乱れてしまい、電気の供給を正常に行うことができなくなってしまいます。その結果、安全装置の発動によって発電所が停止してしまい、場合によっては予測不能な大規模停電をまねく可能性があるからです。
2018年9月に発生した北海道全域の停電「ブラックアウト」は、この電力需給バランスの崩壊が原因でした。
大規模停電などの不測の事態を未然に防ぐべく、導入されたのがインバランス制度です。
小売電気事業者は需要を予測し、その予測に応じた供給量を調達することで、実際の発電量と計画とのズレを調整し、電力市場全体の安定性を確保することが求められています。
さらに、インバランス制度は、エネルギー市場の透明性や効率性の向上にも寄与しています。制度の導入により、需給のズレが生じた際の責任の所在や費用の精算方法が明確化され、小売電気事業者や発電事業者が適切なリスク管理を行いやすくなっています。これにより、市場参加者はより正確な需給予測と計画を立てることが可能となり、全体としての電力供給の信頼性が向上しています。
電力需給のバランス維持の重要性
電力需要は、季節や気象状況、時間帯によって大きく変動します。たとえば、1年の中で最も電力需要が高い時間帯は、街のあちこちで冷房が使われる夏、それも工場なども稼働している昼間です。さらに、晴れ、曇り、雨など天候の違いによっても、電力需要は変動します。
小売電気事業者は刻々と変動する電力需給に合わせて、調達量と需要を一致させ続ける必要があります。
しかし、大量の電気を安く貯める技術はまだ実現していません。
そのため、その日その時に使う電気は毎日生産され、必要になった都度、供給されています。
一方、供給側にも、電力の需給バランスに急激な変動をもたらしてしまうリスク要因が存在しています。
たとえば、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの供給量は、天候などさまざまな条件によって変動するため、それによって需要に対して供給が少なくなったり多くなったりしないよう調整する必要があります。
あるいは、発電所や送配電線が急なトラブルで電気を送れなくなり、電力需給バランスを狂わせてしまう場合もあります。
そこで、小売電気事業者はさまざまな発電方法を組み合わせて、需要と供給をすみやかに合わせる努力をしています。電力を安定供給するためには、変動する電力需給バランスを正確に調整することが必要不可欠なのです。
再生可能エネルギーの普及による制度改正の影響
太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、天候や時間帯によって発電量が大きく変動するため、安定した発電計画の策定が難しくなっています。
さらに再生可能エネルギーの普及は、インバランス制度に大きな影響を与えています。
太陽光や風力が急速に普及した結果、再生可能エネルギーの発電量が昼間の電力需要を大幅に上回る時間帯が発生しており、同時同量の原則が崩れ、大規模停電に陥るリスクが高まりつつあります。
そのため、九州エリアでは2018年から太陽光などの発電を停止する「出力制御」が実施されており、2025年には全国規模で実施されると予想されています。
その一方で、出力制御が行われている時間帯における系統余剰の発生は、実質的に限界費用0円の太陽光などの発電を停止することで、需給バランスを安定化させています。
そこで経済産業省は、2022年度から出力制御が実施された時間帯のインバランス料金は0円/kWhとする制度改正を実施しています。
インバランス料金の仕組みと算定方法
インバランス料金とは、一般送配電事業者が実需給における電気の過不足を調整する単価であることから、実需給の電気の価値が適切に反映されるよう、制度設計されてきました。
この料金の仕組みと算定方法を正確に理解することで、小売電気事業者は市場の変動に対応し、コスト管理やリスクの最小化を図ることができます。
インバランス料金がどのように構成され、どのような要素がその算定に影響を与えるのかについて概要を紹介します。
インバランス料金の課題
経済産業省は、2021年4月に創設した需給調整市場に合わせて、インバランス料金制度を抜本的に見直すという方針のもと、2022年度以降から適用される新たなインバランス料金制度の詳細設計を検討してきました。
従来のインバランス料金は、卸電力取引所の市場価格をベースとした制度であり、次の2つが課題となっていたためです。
- 系統全体の需給バランスを一致させようと促すインセンティブが弱い
- 一般送配電事業者は、従来のインバランス料金では需給調整コストを十分に回収できない
そこで経済産業省は、次の3つの考え方を基本とし、インバランス料金制度の改正を進めます。
- インバランス料金が、実需給の電気の価値を反映していること
- 系統利用者に対して需給調整の円滑化に向けた適切なインセンティブを与えること
- 一般送配電事業者が需給調整コストを適切に回収できるものであること
インバランス料金がその時々の電気の価値を反映するとともに、タイムリーな情報公表により、最適配分やデマンドレスポンスなどの需要側対応などが進むことを目指したわけです。
さらに需給ひっ迫時には、インバランス料金が上昇する「補正インバランス料金」という仕組みも導入します。
2022年度以降のインバランス料金の算定方法とは
2022年度以降のインバランス料金の算定方法は、次の5つに分けることができます。
- ①限界的なkWh価格(通常のインバランス料金)
- ②需給ひっ迫時の補正インバランス料金
- ③太陽光や風力の出力抑制時のインバランス料金(系統余剰)
- ④電源Ⅲの抑制時のインバランス料金(系統余剰)
- ⑤ブラックアウト発生時のインバランス料金
それぞれの算定方法について解説します。
①調整力の限界的なkWh価格(通常のインバランス料金)
一般送配電事業者は、事前に確保していた需給調整用の電源の出力を上げ下げすることで、余剰分は買い取り、不足分を供給することで、小売電気事業者や発電事業者が発生させたインバランスを解消します。
一般送配電事業者は、メリットオーダーに基づき、最も安い発電コストの電源から順番に稼働させることから、実需給で稼働する調整力の限界的なkWh価格は、その時間帯の電気の価値を原則、反映しているものと考えられます。
そこで、その時間帯に稼働した調整力の限界的なkWh価格が通常のインバランス価格として適用されています。
②需給ひっ迫時の補正インバランス価格
需給ひっ迫時の不足インバランスの発生は、大規模停電などの発生リスクを増大させ、緊急的な供給力の追加確保や将来の調整力確保量の増大といった社会的コストを上昇させます。
その一方で、インバランス料金の高騰は、小売電気事業者などの経営に甚大な影響を与えるだけでなく、需要家の負担引き上げももたらします。そのため、小売電気事業者などはリスク回避に向けて、電源調達やDRの活用拡大など、あらゆる手段を講じ同時同量の遵守に努め、その結果として、電力需給の安定性が保たれます。
こうした行動原理に基づき、社会的コストの増大を防ぐべく、一般送配電事業者が需給調整に活用可能な「上げ余力」が減少するにつれて、リスクに備えた緊急の供給力追加確保や将来の調整力確保量の増加といった追加的コストを上昇させる仕組みを導入したわけです。
需給ひっ迫時の補正インバランス価格は、「補正料金算定インデックス」と呼ばれる一定の式をもとに、追加コストがインバランス料金に適切に反映されるよう制度設計されています。
補正料金算定インデックスとは
需給ひっ迫時における補正インバランス料金は、「補正料金算定インデックス」をもとに算定されます。
補正料金算定インデックスは、一般送配電事業者が算定する「予備率」から設定されています。
予備率とは、電力需要のピークに対し、供給力にどの程度の余裕があるかを示した数値です。電力需要は3%程度のブレがあることから、安定供給には予備率3%が最低限必要とされています。
下記の図表のように、予備率(横軸)が8%に低下すると、インバランス料金は1kWhあたり45円(縦軸D値)に上昇します。さらに予備率が安定供給に最低限必要な3%にまで低下すると、インバランス料金は600円(縦軸C値)にまで跳ね上がるよう設計されました。
出典:https://www.emsc.meti.go.jp/info/public/pdf/20220117001b.pdf
ただし、予備率3%時点におけるインバランス料金は、原則600円/kWhにすると規定されたものの、急激なインバランス料金の上昇が小売電気事業者などに与える影響を考慮し、2022年度から暫定措置として200円/kWhが適用されています。
2025年度も200円/kWhが適用されましたが、暫定措置は必要最低限の期間にとどめておくべきとも規定されており、需給ひっ迫時のインバランス料金は2026年度から引き上げられる予定です。
2026年度のインバランス料金の上限引き上げについては、次のセクションで解説します。
経済産業省は、需給ひっ迫時にインバランス料金が上昇する仕組みを導入することにより、時間前市場の価格上昇に加え、DRや自家発電など追加的な供給力を引き出す効果や、需要家の節電協力などを促進したい考えです。
③④ 太陽光・風力および電源Ⅲの出力抑制時におけるインバランス料金
前述のとおり、太陽光や風力の出力制御が行われている時間帯で、系統余剰となった場合、インバランス料金は「0円/kWh」となります。
また太陽光などの出力制御に至らないまでも、優先給電ルールにより、一般送配電事業者からの指令によって、オフラインの火力発電などの出力を計画値から下げる場合があります。これを「電源Ⅲ抑制」と呼びます。
系統余剰が発生し、「電源Ⅲ抑制」を実施した場合、本来であれば電源Ⅲの下げkWh価格をインバランス料金に反映させるべきですが、電源Ⅲはオフラインであるため、下げkWh価格をタイムリーに把握することが困難です。
そこで、一般送配電事業者が調整可能な電源Ⅰ・Ⅱの出力を代わりに下げ、その下げ指令単価の最低値を電源Ⅲ抑制時の価格とみなすよう規定しています。
⑤ブラックアウト発生時のインバランス料金
ブラックアウトとは、大手電力会社の管轄する地域のすべてで停電が起こる現象(全域停電)です。
ブラックアウトが発生した場合、混乱の回避と市場参加者の公平性を保つために、卸電力取引市場を一時的に停止したうえで、インバランス料金にはブラックアウト発生前のスポット市場価格が適用されます。
2026年度インバランス上限値引き上げとその影響
2026年度に予定されているインバランス上限値の引き上げは、電力市場の変動に適応するための重要な改正です。本節では、改正の背景や具体的な変更内容を概観し、小売電気事業者や需要家に与える影響やリスク増大の可能性についての概要を紹介します。
改正の概要と背景
2022年度以降、時限的措置として、全国的な電力供給の余力を示す「広域予備率」が8%に低下した時点のインバランス料金(D値)は1kWhあたり45円、広域予備率3%以下になると200円(C値)に上昇する仕組みが継続してきました。
しかし、C値の設定を低くしすぎると市場にゆがみを与えてしまいます。
需給ひっ迫時においては、C値が事実上の卸市場価格の上限となるため、買い手である小売電気事業者は、「インバランス料金がC値より上がることはないだろう」と考えます。そのため、買い手は計画停電や電力使用制限が実施されるような緊急事態下であっても、「時間前市場やスポット市場でC値より高い価格で買いを入れない」という行動を取ることが想定されます。
つまり、C値の設定を実際の社会的コストよりも低く設定してしまうと、需給ひっ迫時においても時間前市場やスポット市場の価格は十分に上昇せず、一般送配電事業者が需給調整ために費やしたコストを回収できないだけでなく、市場のゆがみが、小売電気事業者と需要家が協力して需要を調整するDRなど、新たな取り組みの普及を阻害する可能性すらあるわけです。
そこで、電力・ガス取引監視等委員会は2024年9月からC値およびD値の見直しに向けた議論を進めてきました。
2026年度から補正インバランス料金の上限価格は引き上げ
電力・ガス取引監視等委員会は2025年4月25日、事務局案を取りまとめ、2026年度から需給ひっ迫時の補正インバランス料金の引き上げを決定します。
C値およびD値の引き上げ額は次のとおりです。
C値(広域予備率3%以下):2026年度から当面の間、300円/kWh
D値(広域予備率8%以下):2026年度から当面の間、50円/kWh
出典:https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/008_04_02.pdf
監視等委員会は、インバランスの発生やインバランス料金の状況などを監視し、必要に応じてさらに見直すとしています。
その一方で、長期間にわたって上限価格が継続するような状況下では、電源は供給力として出尽くしており、追加的な供給力として期待できるのは、DRなど限定的です。しかし、長期間のDRの連続稼働には限界があり、小売電気事業者は回避困難な不足インバランスを累積負担する可能性があります。
不足インバランスの累積は、小売電気事業者の経営に対し甚大な影響を与えかねません。
そこで、監視等委員会はセーフティネットとして、上限価格が一定期間以上連続して発生した場合、一時的にC値を引き下げる「累積価格閾値制度」と呼ばれる制度を導入する考えです。
累積価格閾値制度の概要
期間設定:対象日の直前7日間
閾値設定:スポット市場価格(エリアプライス)200円/kWh以上の累積発生コマ数が20コマに到達(ただし、沖縄エリアについては指標をインバランス料金とする)
閾値を超えた場合の上限価格:閾値に到達した翌日から補正インバランス料金の上限価格を100円/kWhとする
解除要件:対象日の直前7日間の100円以上の累積発生コマ数がゼロになった時点
インバランス料金制度の見直しは2026年4月から予定されており、改定に向けたスケジュールは下記のとおりです。
見直しに向けたスケジュール
2025年5月 | パブリックコメントの実施(約1か月) |
6月 | 第10回制度設計・監視専門会合にてパブリックコメントの結果を報告 |
7月 | 電力・ガス取引監視等委員会にて中間取りまとめの報告、資源エネルギー庁への建議 |
2026年4月 | 制度運用開始 |
事業者への影響とリスク増大の可能性
2026年度に予定されているインバランス上限値の引き上げは、小売電気事業者にとって様々な影響とリスク増大の可能性をもたらします。制度改正に伴い、事業者は新たな料金体系に適応する必要があり、それに伴うリスク管理の強化が求められます。
具体的には、インバランス料金の変動リスクが高まり、従来のリスク管理手法では対応しきれない場面が増えることが予想されます。これに対処するため、事業者は戦略的なリスク分散や計画精度の向上など、包括的な対応策を講じる必要があります。本セクションでは、これらの影響とリスク増大の可能性について、さらに詳しく分析していきます。
インバランス料金の急騰リスク
インバランス料金の急騰リスクは、電力市場における市場価格の急激な変動によって引き起こされます。特に、需要と供給のバランスが崩れた際に市場価格が急上昇すると、その影響はインバランス料金にも直結します。この急騰は、小売電気事業者にとって予期せぬコスト増加を招き、財務状況に重大な影響を与える可能性があります。さらに、再生可能エネルギーの不安定な出力や市場の流動性不足なども、インバランス料金の急騰リスクを高める要因として挙げられます。このようなリスクを管理するためには、リアルタイムでの市場価格のモニタリングや、リスクヘッジのための金融商品活用が不可欠です。適切なリスク管理戦略を採用することで、急激な料金変動による影響を最小限に抑え、企業の安定的な運営を支えることが可能となります。
計画精度への要求水準の引き上げ
インバランスのリスクを管理するうえで、計画精度への要求水準の引き上げは極めて重要な要素です。市場の変動性が増す中で、需要・発電計画の精度向上が求められる背景には、再生可能エネルギーの普及や電力市場の複雑化があります。
これにより、小売電気事業者や発電事業者は、従来以上に正確な需要予測や発電計画を策定する必要があります。例えば、AIや機械学習を活用した高度な予測モデルの導入が進められており、リアルタイムでのデータ分析能力の強化が求められています。
計画精度の向上は、インバランス料金のリスクを低減し、電源コストの変動を抑制するために不可欠です。具体的な対応方法としては、需要予測の精度を高めるためのデータ収集体制の整備や、発電計画の柔軟な調整体制の構築が挙げられます。
例えば、市場動向をリアルタイムでモニタリングし、予測結果に基づいて迅速に発電量を調整することで、インバランス料金の急激な変動リスクを回避することが可能となります。これにより、企業は安定的な運営とコスト管理を実現できるのです。
インバランスリスク管理の重要性
電力市場におけるインバランスリスク管理は、市場の安定性と供給の信頼性を確保するために極めて重要です。需要と供給のバランスが崩れると、システム全体に大きな影響を及ぼし、電力料金の変動や供給停止といったリスクが発生します。
市場の変動や予測不可能な要因は、インバランスリスクを増大させる主要な要因となります。これにより、小売電気事業者は迅速かつ効果的なリスク管理戦略を構築・実行する必要があります。適切なリスク管理を行うことで、企業は安定した運営を維持し、顧客に対するサービスの信頼性を高めることが可能となります。
したがって、インバランスリスク管理は単なるコスト管理の一環ではなく、電力市場における競争力の維持や長期的な成長戦略の実現に欠かせない要素となります。
小売電気事業者に求められる能力
小売電気事業者は、インバランスリスクを効果的に管理するために、需要および発電計画の精度向上や市場動向のモニタリングなど、さまざまな能力が求められます。これらのスキルと知識は、安定した電力供給とコスト管理を実現するために不可欠です。本セクションでは、効果的なリスク管理を行うために必要な具体的な能力について概観します。
需要・発電計画の精度向上
需要および発電計画の精度を向上させることは、インバランスリスク管理において不可欠です。精度の高い計画により、需供のズレを最小限に抑え、リスクの発生を未然に防ぐことが可能となります。以下では、具体的な方法や戦略、そして最新のツールについて紹介します。
市場動向のモニタリングと予測
市場動向のモニタリングと予測は、インバランスリスク管理において極めて重要な役割を果たします。電力市場は常に変動しており、需給バランスを維持するためにはリアルタイムでの市場データの分析が欠かせません。
リアルタイムデータの継続的なモニタリングにより、需要と供給の微細な変化を即座に把握することが可能となります。例えば、急激な天候の変化や予期せぬ施設の停止など、予測不可能な事象が発生した際にも迅速に対応するための基盤を提供します。
また、高度な予測手法を活用することで、将来的な市場動向を予測し、リスクを事前に管理することができます。機械学習アルゴリズムを用いた需要予測モデルや、過去の市場データを基にしたトレンド分析は、トレーダーが効果的なリスク管理戦略を策定する上で不可欠です。
具体的な例として、AIを活用した予測システムは、膨大な市場データをリアルタイムで解析し、需給の変動を予測することで、インバランス発生時の迅速な対応を可能にします。これにより、予期せぬリスクを最小限に抑え、安定した市場運営を支えることができます。
調整力の確保と予備率の管理
インバランスリスク管理において、調整力の確保と予備率の管理は極めて重要な役割を果たします。調整力とは、市場の需給バランスが崩れた際に迅速かつ効果的に対応できる能力を指し、予備率はその調整力を支えるための余裕率を意味します。これらを適切に管理することで、インバランス料金の変動リスクを最小限に抑え、電力供給の安定性を維持することが可能です。
具体的な管理方法としては、まず 市場動向や予備率の継続的なモニタリング が挙げられます。これにより、需給の急激な変動を事前に予測し、インバランスを適切に抑制することが可能となります。さらに、リアルタイムでの調整計画の見直しや AI・機械学習技術を活用した予測モデルの導入も効果的なベストプラクティスとして推奨されます。
ベストプラクティスとしては、定期的なシミュレーションとストレステストの実施があります。これにより、実際の市場変動に対する対応力を事前に検証し、必要に応じて調整力や予備率を再評価・調整することが可能です。また、事業者間の協力体制を強化し、情報共有やリソースの相互補完を図ることも効果的な戦略となります。これらの取り組みを通じて、インバランスリスク管理の精度と信頼性を向上させることができます。
最新のインバランスリスク管理戦略
現代の電力市場において、インバランスリスク管理はますます複雑化し、効果的な戦略の導入が求められています。最新の技術や手法を活用し、リスクを最小化するための革新的なアプローチが必要不可欠です。
本節では、AIや機械学習を用いたリスク軽減策や、事業者間の連携によるリスク分散など、現代の市場に適応した最新のインバランスリスク管理戦略について概観します。
AI活用によるリスク軽減
AIや機械学習技術を活用したリスク軽減方法は、インバランスリスクの予測精度向上やリアルタイム対応能力の強化において、現代の電力市場における効果的な戦略として注目されています。本節では、具体的な活用例を通じて、AI技術がどのようにインバランスリスクの予測や管理に貢献しているかを概観します。
需要予測モデルの精度向上
需要予測モデルの精度向上は、インバランスリスク管理において極めて重要な要素です。AI技術を活用することで、過去の消費データや天候情報、市場動向など多様なデータを統合的に分析し、より正確な予測を実現します。これにより、需要の変動を迅速かつ正確に捉えることが可能となり、リスク管理の精度が向上します。
具体的には、機械学習アルゴリズムやディープラーニング技術を用いたモデルが採用されており、これらの技術は複雑なパターンやトレンドを自動的に学習し、高度な予測能力を発揮します。予測精度の向上は、インバランスリスクの早期検知と適切な対応策の策定に直結し、結果として市場の急激な変動にも柔軟かつ効果的に対応できるようになります。
発電計画のリアルタイム調整
発電計画のリアルタイム調整は、電力市場における需給バランスを維持するために極めて重要です。市場の急激な需要変動や予期せぬ供給の変動に即応することで、インバランスリスクを効果的に管理し、安定した電力供給を実現します。
リアルタイム調整を行うためには、最新のAI技術や自動制御システムの導入が不可欠です。例えば、AIを活用した需要予測モデルにより、短時間での需要変動を高精度で予測し、発電計画を迅速に最適化することが可能となります。また、自動制御システムを用いることで、発電設備の出力をリアルタイムで調整し、需要の変化に即座に対応することができます。
事業者間の連携によるリスク分散
事業者間の連携によるリスク分散は、インバランスリスク管理における重要な戦略です。協力体制の構築や情報共有を通じて、各事業者が単独で抱えるリスクを効果的に分散させることが可能となります。本セクションでは、具体的な連携事例を紹介しながら、その方法とメリットについて概観します。
発電事業者と小売電気事業者の協力体制
発電事業者と小売電気事業者の協力体制は、電力市場における効率的な需給バランスの維持やリスク管理において非常に重要です。この協力体制により、双方はそれぞれの専門知識とリソースを活用し、安定した電力供給とコスト効率の向上を実現します。
発電事業者は電力の供給側として、発電計画の策定や設備の運用管理を担当します。一方、小売電気事業者は需要側として、消費者との契約管理や需要予測を行います。これらの役割分担により、双方は市場の変動に柔軟に対応することが可能となります。
協力のメリットとして、以下の点が挙げられます:
リスク分散 - 需要と供給の不確実性を共有し、双方のリスクを軽減します。
コスト削減 - 効率的な運用と資源の最適化により、全体のコストを削減できます。
市場競争力の向上 - 協力により市場における競争力を強化し、より良いサービスを提供できます。
実際の協力事例としては、以下のような取り組みが行われています:
共同需給予測システムの導入 - 発電事業者と小売電気事業者がデータを共有し、需要予測の精度を向上させています。
リアルタイム情報共有プラットフォームの構築 - 市場の変動に即応するための情報共有体制を整備し、迅速な意思決定を支援します。
共同リスク管理プログラムの実施 - リスク管理のための共同プログラムを運営し、予期せぬ市場変動に対する備えを強化しています。
効果的な連携方法としては、定期的なコミュニケーションの確立や共通の目標設定が重要です。また、最新技術の活用やデータ分析の共有を通じて、協力体制をさらに強化することが求められます。
需給管理の業務委託
需給管理の業務委託は、専門的な知識と高度な技術を持つ外部パートナーに需給管理業務を委ねることで、企業のリスク管理能力を強化する手法です。これにより、内部リソースを効率的に活用しつつ、より精緻なデータ分析やリアルタイムの需給調整が可能になります。
業務委託先を選定する際には、以下のポイントを考慮することが重要です。
専門知識と経験:需給管理に関する深い知識と実績を持つパートナーであること。
技術力:最新の技術を活用し、効率的なデータ分析や予測が可能な能力。
セキュリティ:機密データの取り扱いにおける高いセキュリティ基準を遵守していること。
コミュニケーション能力:効果的な情報共有と迅速な対応が可能な体制を持っていること。
業務委託を効果的に管理するためには、定期的なパフォーマンスレビューや明確な契約条件の設定が不可欠です。また、委託先との綿密な連携を図り、リスク管理プロセスの透明性を確保することが成功の鍵となります。
FPSの需給管理能力
FPSでは高度な需給管理能力および電力トレーディング機能を有することで、インバランス量を最小限に抑えることが可能です。
FPSが持つ需給管理能力、電力トレーディング機能について紹介します。
FPSが持つ高度な需給管理能力とは
01. 体制
FPSでは、社員が需給管理業務を実施することで、メンバー間での専門知識と技術を共有・蓄積しています。
またシフト勤務体制により、休日も含め365日対応が可能です。
02. 業務運用
予測精度向上のため、実需給断面までに複数回予測計算を実施することで、最適な需給管理を実現しています。
また発電所の特性を踏まえてFPS社員が発電量を予測し、メンバー間で“考え方/予測根拠”を共有したうえで、ダブルチェックも実施しています。
03. データ活用/分析
需要家様の特性ごとに数百の「予測グループ」を構成し、精緻な需要予測のための検証・データ管理を実施しています。
さらに予測グループの洗い替えを適宜、実施しています。
FPSが有する電力トレーディング機能とは
01. 需給バランス
日々刻々、変動する需要や電力価格を見極めながら、電力の調達・卸売を行い、需給バランスを保ちつつ収益を追求しています。
02. トレーディング
金融業界のトレーディング、多業種のデータサイエンスの知識・経験を持つメンバーが、電力政策変更に柔軟に対応しながら、電力取引の精度向上に日々、努めています。
03. 最適なポートフォリオ
世界情勢、エネルギー価格や為替などの市況、カーボンニュートラルの動向、天候などから、短期・中長期を見通したうえで、卸調達・卸販売を実施することで、最適なポートフォリオを形成しています。
FPSでは他社新電力様、発電事業者様に向けて需給管理代行などのサービスを提供しております。
気になることがあれば、お気軽にお問い合わせください。
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【再エネ取り組みロードマップ紹介】
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