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2025.08.12
燃料費等調整額とは?電気料金への影響を徹底解説
火力発電への依存度が高い日本では、燃料に使う原油や液化天然ガス、石炭の高騰による電気料金の急激な値上がりを防ぐため「燃料費等調整制度」が導入されています。しかし、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、エネルギー価格は大きく変動し、円安やインフレも加わり、「燃料費等調整額」が上昇しています。2024年に入っても、電気料金は値上げ傾向が続いています。
今回は、燃料費等調整額とは何か?電気料金にどのような影響を与えているのか、徹底解説します。
目次
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燃料費等調整額とは
燃料費等調整額とは、原油や液化天然ガス(LNG)、石炭の価格変動および卸電力取引所におけるスポット市場価格の変動を電気料金に反映させるため、その変動に応じて、電気料金を調整する金額のことです。ひと月の燃料費等調整額は燃料価格調整単価および市場価格調整単価にひと月の電力使用量をかけることで算出されます。
日本は火力発電への依存度が高く、2022年度の全発電量に占める火力発電の割合は72.8%となっています。その内訳は、LNGが33.8%、石炭30.8%、石油8.2%です。
出典:経済産業省「安定供給の現状と課題と火力の脱炭素化の在り方について」(22ページ)
燃料価格は国際情勢や為替レートの影響を受け、常に変動しています。
また発電事業者によってつくられた電力を取引する卸電力市場のスポット市場価格も常に変動しています。
価格が高騰し、すぐに電気料金に反映されると需要家や電力会社の経営にも大きな影響を与えてしまいます。そこで、電気料金の急激な値上がりを防ぐために「燃料費等調整額」が導入されています。
燃料価格調整単価は燃料価格の変動をならすため、過去3ヶ月間のLNG・石炭・原油価格の数量および価額の値に基づき、原油換算での平均燃料価格を算定して、2か月後の電気料金に反映させる仕組みになっています。加えて一部のエリアでは卸電力取引市場の価格変動を約1ヶ月から2ヶ月後の電気料金に反映させる仕組み(市場価格調整単価)も導入されています。
燃料価格が上昇すると、電気料金は上がり、逆に燃料価格が下がると、電気料金も安くなります。
一方、需要家への負担が大きくなりすぎないよう、一般家庭向けの一部の契約(規制料金)では、電力会社が電源構成などに応じて定めた基準燃料価格の1.5倍までしか料金に反映できない仕組みになっています。上限を超えた金額は、電力会社が自社で負担することになります。
燃料費等調整額が導入された背景
電力会社は、燃料費等調整額が導入される以前は、オイルショック後の原油価格の低下や為替レートの円高の影響を受け、数回にわたって電気料金を暫定的に引き下げてきました。
その後、経済情勢の変化をできる限り迅速に電気料金へ反映させ、電力会社の経営環境の安定を図ることを目的に、1996年、燃料費調整額が導入されました。
導入当初は4半期ごとに電気料金を調整していましたが(例えば、1〜3月の燃料価格は同年7〜9月の電気料金に反映されます)、2008年に起こった燃料価格の大幅かつ急激な変動を受け、2009年から料金反映までの期間を1ヶ月短縮したうえで、3ヶ月分の平均燃料価格を毎月反映する仕組みに変動されています(例えば、1〜3月の燃料価格が同年6月の電気料金に反映されます)。また2023年4月から一部の電力会社では燃料価格調整に加えて、卸電力取引市場の価格変動を電気料金に反映させる「市場価格調整」を導入しました。2025年4月時点で市場価格調整を行っているエリアは四国を除く北海道・東北・東京・中部・北陸・関西・中国・九州となります。
電力会社は燃料費等調整額をどのように利用するか
一般的な電気料金メニューには基本料金と電力量料金だけでなく、燃料費等調整額なども含まれており、電力会社は下図の算定方法から電気料金を算定しています。(※燃料費等調整額を適用しないメニューもあります。)
電力会社は「燃料価格調整項」と「市場価格調整項」の合算が正(プラス)の値の場合は、電気料金を上げ、負(マイナス)の値の場合は、電気料金を引き下げます。
燃料費等調整額の仕組みと影響
まず原油・LNG・石炭それぞれの3ヶ月間の貿易統計価格に基づき、毎月の平均燃料価格を算定します。
次に、算定された平均燃料価格と貿易統計価格に基づき設定された基準燃料価格と比較し、その差分から各月の電気料金に反映される「燃料価格調整単価」が算定されます。
スポット市場価格の変動に関しては、各電力会社ごとに算定式が異なります。
一例としては、卸電力取引所における3ヶ月間の全日のスポット市場価格(午前0時から翌日の午前0時までの単純平均スポット市場価格)および、昼間のスポット市場価格(午前8時から午後4時までの単純平均スポット市場価格)に基づき、毎月の平均市場価格を算定します。
算定された平均市場価格と、スポット市場価格に基づき設定された基準市場価格と比較し、その差分から各月の電気料金に反映される「市場価格調整単価」が算定されます。
こうして算定された「燃料価格調整単価」と「市場価格調整単価」を合わせたものが「燃料費等調整単価」となり、電気料金に反映される仕組みになっています。(一部エリアでは上記と異なる仕組みを採用しています。)
消費者にとっての燃料費等調整額の影響
燃料費等調整額は、3ヶ月間の燃料価格およびスポット市場価格に基づき算定されます。
電気料金への反映時期は、燃料価格の場合は約2ヶ月後、スポット市場価格の場合は約1ヶ月~2ヶ月後となっており、燃料価格や市場価格を大きく左右する何らかの事象が発生すると、その影響が消費者にもたらされるまでにタイムラグが生じることから注意が必要です。
燃料費等調整額の内容と計算方法
燃料費等調整額の算定にあたっては、燃料価格がどれだけ変動したか、スポット市場価格がどう推移したのか、算定する必要があります。
燃料価格の変動を算定したものを「燃料価格調整項」と呼びます。燃料価格調整項にかかる燃料価格調整単価は「基準燃料価格」と「平均燃料価格」、そして「基準燃料単価」の3項目から計算されます。
① 基準燃料価格:料金設定の前提となる平均燃料価格(料金改定前の直近3ヶ月の貿易統計価格に基づき算定された平均価格)
② 平均燃料価格: 原油、LNG、石炭それぞれの最新3ヶ月間の貿易統計価格などから算定
③ 基準燃料単価:平均燃料価格が1キロリットルあたり1,000円変動した場合に発生する電力量1kWhあたりの変動額
- ①基準燃料価格は、料金改定申請前3ヶ月の原油・LNG・石炭それぞれの貿易統計価格の加重平均値です。電力会社の火力発電における燃料構成比に応じて算出されることから、基準燃料価格は電力会社によって異なります。
- ②平均燃料価格は、まず貿易統計をもとに、原油・LNG・石炭それぞれの3ヶ月平均価格を算定します。次にそれぞれの燃料は熱量や単位が違うため、各燃料の構成比に応じた係数を乗じることで、熱量および単位を原油換算に統一します。こうして、それぞれの燃料の平均価格から、原油に換算しなおした平均燃料価格が算定されます。
- ③基準燃料単価は、平均燃料価格が1キロリットルあたり1,000円変動した場合に発生する電力量1 kWhあたりの変動額です。
「基準燃料価格」「平均燃料価格」「基準燃料単価」から、燃料価格調整単価が算定されます。その計算式は以下のとおりです。
燃料価格調整単価[銭/ kWh]=(平均燃料価格[円/キロリットル]−基準燃料価格[円/キロリットル])×基準燃料単価/1,000円
次にスポット市場価格の変動を算定したものを「市場価格調整項」と呼びます。市場価格調整項にかかる市場価格調整単価も「基準市場価格」「平均市場価格」「基準市場単価」の3項目から計算されます。なお、平均市場価格の算定方法については各エリアによって異なり、下記に記載する算定式は一例となります。
④ 基準市場価格:料金設定の前提となる平均市場価格
⑤ 平均市場価格:卸電力市場における3ヶ月間の全日スポット市場価格および昼間のスポット市場価格に基づき、算定
⑥ 基準市場単価:平均市場価格が1 kWhあたり1円増減した場合に発生する電力量1 kWhあたりの変動額
上記の「基準市場価格」「平均市場価格」「基準市場単価」から、市場価格調整単価が算定されます。その計算式は以下のとおりです。
市場価格調整単価[銭/ kWh]=(平均市場価格[円/ kWh]−基準市場価格[円/ kWh])×基準市場単価
上記の算定式により算出された市場価格調整単価に使用電力量を乗じると、「市場価格調整項」にかかる燃料費等調整額が算定されます。
こうして算定された「燃料価格調整単価」と「市場価格調整単価」を合わせたものが「燃料費等調整単価」となり、燃料費等調整単価に使用電力量を乗じると「燃料費等調整額」が算定され、電気料金に反映されます。
燃料費等調整額の最新動向
電力会社の電源構成に占める火力発電の割合や燃料の輸入価格などは、電力会社ごとに異なります。そのため燃料費等調整額も電力会社ごとに異なります。
燃料費等調整額はどのように推移しているのか、最新動向を解説します。
国内外の燃料価格の変動と調整額への影響
2022年のウクライナ危機を受け、エネルギー価格は大きく変動し、日本の電力会社がLNGを輸入する際の価格の指標となるアジア市場のスポット価格、JKM(Japan Korea Marker)は84.76ドル/百万BTUと過去最高値をつけました。
円安も加わり、日本向け輸入価格も上昇。電気料金への影響が大きいLNGは一時、1トンあたり16万4,909円をつけ、石炭は1トンあたり5万9,180円まで上昇しました。燃料価格の高騰は燃料費等調整額の値上がりにも影響します。
LNGや石炭価格は、2023年に入ると落ち着きを取り戻し、2024年5月のLNG価格は9万2,191円まで下落。石炭も2万3,917円まで低下しています。
燃料価格の下落を受け、燃料費等調整額も減少傾向にあります。
しかし、米中対立や中東情勢の激化など、エネルギーをめぐる地政学リスクは緊迫を増しており、いつ燃料価格が高騰してもおかしくない状況が続いています。
国際情勢の変化による燃料価格の高騰や円安の進行は、燃料費等調整額の値上げにつながるため、今後も注視が必要です。
燃料費等調整額の計算例
燃料費等調整額はどのように算出されているのか、関西電力株式会社の業務用電力、高圧電力等の従来料金プランをもとに解説していきます。
具体的な計算方法と計算に必要なデータ
まず「燃料価格調整項」を計算するために必要な平均燃料価格などを算出します。
関西電力株式会社の基準燃料価格は47,000円です。
次に平均燃料価格の前提となる貿易統計の価格は次のとおりです。
2024年11月〜2025年1月の貿易統計価格
平均原油価格:74,680円/キロリットル
平均LNG価格:97,032円/トン
平均石炭価格:23,355円/トン
平均燃料価格を算定するには、熱量および単位を原油換算に統一する必要があります。その計算式は下記のとおりです。
A.平均原油価格74,680×0.0045
B.平均LNG価格97,032×0.1974
C.平均石炭価格23,355×1.0532
A+B+C=44,100(※100円単位とし、100円未満の端数は10円の位で四捨五入)となり、平均燃料価格44,100円/キロリットルが算定されます。
基準燃料単価は高圧供給の場合、10銭6厘です。
上記3つの項目から、(44,100−47,000)×0.106÷1,000=▲0.31が求められ、その結果、2025年4月の燃料価格調整単価は▲0.31円/ kWhとなります。
次に「市場価格調整項」を計算するために必要な平均市場価格などを算定します。
基準市場価格は10円82銭/ kWhです。
平均市場価格の前提となる市場価格は次のとおりです。
2025年1月21日〜2月20日の実績
午前0時から翌日午前0時までの単純平均スポット市場価格:13.30円/ kWh
午前8時から午後4時までの単純平均スポット市場価格:11.74円/ kWh
上記の結果、平均市場価格は13.17円/ kWhとなります。
基準市場単価は高圧供給の場合、23銭7厘です。
上記3つの項目から、(13.17−10.82)×0.237=0.56が求められ、その結果、2025年4月の市場価格調整単価は0.56円/ kWhとなります。
燃料価格調整単価▲0.31円/ kWhと市場価格調整単価0.56円/ kWhを合わせると0.25円/ kWhとなり、2025年4月分の燃料費等調整単価0.25円/ kWhとなります。
参考:関西電力株式会社「2025年4月分電気料金の燃料費調整等」
事例を通じて理解する燃料費等調整単価の変動
ウクライナ危機や円安に伴う燃料価格の高騰や市場価格の変動により、燃料費等調整単価はどのように変動したのでしょうか。
関西電力株式会社の高圧供給に基づく、燃料費等調整単価の推移は以下のとおりです。
2024年4月 | ▲0.03円/ kWh |
2024年5月 | ▲0.41円/ kWh |
2024年6月 | ▲0.69円/ kWh |
2024年7月 | ▲1.03円/ kWh |
2024年8月 | ▲1.23円/ kWh |
2024年9月 | ▲1.25円/ kWh |
2024年10月 | ▲0.50円/ kWh |
2024年11月 | 0.25円/ kWh |
2024年12月 | 0.50円/ kWh |
2025年1月 | 0.08円/ kWh |
2025年2月 | ▲0.27円/ kWh |
2025年3月 | ▲0.30円/ kWh |
参考:関西電力株式会社「各月の燃料費調整単価のお知らせ」
上記の燃料費等調整単価は2024年4月1日実施の電気供給条件の諸元に基づき算定をしており、国の電気・ガス激変緩和措置による値引き単価は除外しております。
今後の燃料費等調整額の見通し
化石燃料のほぼすべてを海外から輸入する日本において、今後の燃料費等調整額の推移を見通すには、電源構成の33.8%を占めるLNGの世界情勢を把握する必要があります。
各国のエネルギー政策およびLNGの世界需要などから、燃料費等調整額の今後を解説します。
エネルギー政策と燃料費等調整額の将来
日本は世界第2位のLNG輸入国ですが、近年は脱炭素化やエネルギーの安定供給に向け、中国、そして欧州でもドイツなどがLNGの輸入量を増やしています。
いまだに発電電力量の61.8%を石炭火力が占める中国は、石炭依存からの脱却を目指し、LNG輸入量を大幅に増やしており、2021年には、LNG輸入量で日本を抜き世界1位になっています。
ロシアからのパイプラインによる天然ガス輸入に頼ってきたドイツなどヨーロッパ諸国も、アメリカ産LNGの調達を急ぎ、争奪戦を繰り広げ、その結果、2022年のLNG価格は歴史的高値で推移しました。
2023年以降、LNG価格は落ち着きを取り戻していますが、石炭火力に依存するインドネシアやマレーシア、タイなどのASEAN諸国もCO2排出量が少ないLNG火力へと、移行を加速させており、LNGの世界需要は2035年まで1.7倍増加するとの予測もあります。
(参考:JOGMEC「脱炭素に向けた多様なエネルギーの経路と不確実性リスクの考察~韓国と台湾の対極的な電源計画とLNG の位置付け、世界のLNG市場を取り巻く状況、日本のLNGを取り巻く課題~」)
こうした世界の動きがLNGの需給ひっ迫につながり、日本の電気料金に対して燃料費等調整額等の上昇といった影響が発生する可能性があります。
日本のLNG調達と燃料費等調整額
今後もLNG価格が変動する可能性がある中で、仮に日本におけるLNGの長期契約が今後減少した場合には、燃料のスポット価格が高騰時に燃料費等調整額が大きく上昇するリスクが高まることを十分に考慮する必要があります。
日本においては現状、国内に輸入されるLNGの8割程度が長期契約によって購入されています。しかし、脱炭素化や省エネの進展により、国内LNG需要が減少し、2030年には長期契約が2022年比で30%近く減少するとの予測があります(参考:経済産業省「LNG長期契約確保に向けて重要な電力市場の環境整備と課題」)。
長期契約の減少はスポット市場への依存度を高め、価格変動リスクを受けやすくなる可能性を高めます。
燃料費等調整額の安定化に向けては、持続可能なエネルギー供給が欠かせません。日本のLNG事業者が新興LNG輸入国に買い負けることや、必要量が確保できないリスクはそう高くはありません。
しかし、LNGのスポット調達の割合が増えていくことで、燃料費等調整額の変動リスクは高くなっていくことが予想されます。
FPSの燃料費等調整額
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