コラム
Column
2025.09.04
PPAモデルとは?仕組みやメリット、デメリット、契約締結へのステップ
日本をはじめ、世界各国で加速する脱炭素化を受け、脱炭素電源を確保できるか否かが、企業競争力を左右する時代に入っています。脱炭素化に取り組む企業を中心に、日本で急速に広がる再生可能エネルギーの調達方法が、PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)です。PPAとは、企業などの需要家が特定の発電設備を対象に、再エネ電力を長期契約で購入する新たな調達方法であり、柔軟性や経済性の高さから、採用する企業が急激に増加しています。 今回は、PPAの仕組みやメリット、デメリット、さらに契約締結に向けたステップまで、電力購入契約の全てを解説します。
目次
-
【再エネ取り組みロードマップ紹介】
資料ダウンロード弊社での導入事例を元にRE100達成までの
道のりをご説明します。 -
PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)とは
PPAとは、Power Purchase Agreement(電力購入契約)の略称で、電力の需要家である企業や自治体などが再エネ発電事業者や小売電気事業者と契約し、再生可能エネルギーからつくられた電力を長期にわたって購入する方法です。
PPAという購入形態は、アメリカのIT大手などを中心に採用が広がり、日本では2021年から急速に増えはじめています。企業などの法人(コーポレート)が契約主体となることから、コーポレートPPAとも呼ばれています。
PPAの契約期間は15年から20年と長期にわたるものが一般的で、こうした契約は再エネ発電事業者にとっても、安定したキャッシュフローが望めることから、重要な資金調達手段になっています。
PPAとは? 仕組みと重要性
PPAは、再エネ発電事業者が自己資金、もしくは金融機関などから資金を調達し、太陽光発電施設などを建設し、所有・維持管理をしたうえで、その再エネ設備から発電された電気を需要家に供給する、と定義されています。
電力の需要家である企業にとって、再エネ電力を調達する方法は次の4つがあります。
- ①自家発電・自家消費:企業自らが太陽光発電施設を設置・維持管理し、その電力を自家消費する方法
- ②再エネ電力メニュー:再エネ比率が高い電力メニューを小売電気事業者から購入する方法
- ③環境価値の購入:再エネ電力が生み出すCO2排出ゼロという環境価値を証書という形で購入する方法
- ④PPA:契約で指定した再エネ発電由来の電力を長期にわたって購入する方法
日本においても、再エネ調達手段が確立されつつある中、企業ニーズも多様化しています。
企業が再エネを調達するうえで、重要視する基準が次の4つです。
環境負荷:再エネ発電設備の建設・運転時に環境に与える影響が小さい
持続性:持続可能なエネルギー源で電力をつくり、有害な廃棄物を排出しない
追加性:再エネ電力や証書の購入により、新たな再エネ設備に対する投資を促す効果があること
地域貢献:太陽の光や風の力、水資源など、未利用資源を有効活用することで、CO2削減のみならず、地域の防災や暮らしの質の向上など、地域課題もあわせて解決する取り組み
①の自家発電・自家消費は、上記4つの基準を満たす可能性がありますが、初期費用がかかるうえに、維持管理の手間や費用も発生します。また余剰電力が生じた場合、売電に向けて電力会社との協議や系統連系申請などが必要となります。
②の再エネ電力メニューは、不特定多数の再エネ発電設備の電力が混在しており、環境負荷の低い電源なのかどうか、また設備の新旧などを特定することが困難です。
③の環境価値の購入は、FIT非化石証書であれば「追加性」がないうえに、FIT新規認定量自体、減る状況下において、今後、大きく増やすことは難しくなると想定されています。
一方、④のPPAは、「環境負荷」「持続性」「追加性」「地域貢献」の4つを満たす可能性があり、脱炭素に積極的な企業を中心に日本でも導入事例が拡大しています。

RE100もPPAを推奨
事業で使う電力を100%再エネで賄うことを目指す企業連合「RE100」は、2022年10月、再エネの調達手法を定める「Technical Criteria」(技術要件)を改定し、2024年1月以降、調達する電力に対し、より一層「追加性」を求めています。
RE100達成に向けては、運転開始日またはリパワリング日から起算して15年以内の電源からの調達が必要だと規定したのです。その改定において、PPAは「新たな再エネ電源への直接的な需要を高め、エネルギー転換を図れる」ことが評価され、運転開始から15年を超えても、継続して利用することが認められています。
追加性がある再エネ電力を長期間、調達できるPPAは、経済産業省や環境省においても、その有用性を評価されています。
経済産業省は、需要家が主導する太陽光発電の導入拡大策として、2021年度から2024年度の4年間で合計約600億円の予算を投じ、コーポレートPPAを推進しており、2024年9月末時点で、94件、444MWの事業が採択されています。
また、環境省は2023年4月、改正省エネ法を施行し、事業者に対してエネルギー消費量の削減だけではなく、化石燃料を使わない非化石エネルギーの導入拡大を求めました。
非化石エネルギーの利用促進のため、特定の再生可能エネルギー由来の電気の使用量を「重みづけ」して評価する仕組みが導入されました。コーポレートPPAなどは、エネルギー効率の計算において、その使用量を1.2倍として扱われます。
政府をはじめ、RE100も、追加性が明確なうえ、CO2削減効果の大きいコーポレートPPAの有用性を高く評価し、優遇しています。そのため、今後一層PPAによる再エネ電力の調達が加速すると予想されています。
PPAの種類
PPAの中でも、今後、普及が加速すると予測されているのが、企業などの法人(コーポレート)が契約主体となるコーポレートPPAです。
コーポレートPPAは大きくわけて、オンサイト(敷地内)PPAとオフサイト(敷地外)PPAの2つの形態が存在します。それぞれについて解説します。
オンサイトPPAとオフサイトPPAの比較
オンサイトPPAは、需要家の敷地内や施設屋根などに発電事業者が太陽光発電設備を設置し、需要家は使用量に応じた電気料金を支払って、発電した電力を一般の電力系統を介さず、直接使用する契約方式と定義されています。
オフサイトPPAは、再エネ電源の所有者である発電事業者と需要家が、事前に合意した価格および期間における再エネ電力の売買契約を締結し、電力の使用場所から離れた場所に建設された再エネ電源が発電した電力を、一般の電力系統を介して供給する契約方式です。
さらにオフサイトPPAには、フィジカルPPAとバーチャルPPAの2種類があります。
フィジカルPPAは、需要家が電力と環境価値をセットで購入する契約形態です。
一方、バーチャルPPAは、需要家が環境価値だけを購入する契約形態で、実際の電力取引を行わないことから、バーチャル(仮想)PPAと呼ばれています。
フィジカルPPAおよびバーチャルPPAの契約期間はいずれも20年間が一般的です。
工場や商業施設の屋根など、太陽光発電設備を設置できるスペースがある需要家にとって、オンサイトPPAは再エネ電力を安く調達できる可能性が高まります。
自家発電と違って、設備の建設・運転・保守・廃棄などの費用を負担せず、導入することが可能です。また一般の電力系統を介さず、自営線・構内線によって電力を送るため、託送料金(送配電網の利用料金)、再エネ賦課金がかからず、安く再エネ電力を購入できます。
その一方で、屋根面積には限りがあり、小規模な発電設備しか設置できないため、大量の電力を消費する工場などでは、オンサイトPPAだけでは必要な電力量をまかないきれず、不足分を調達する必要があります。
オフサイトPPAは、電力の使用場所から離れた敷地外に再エネ電源を建設するため、大規模な発電設備からより多くの再エネ電力、あるいは環境価値が調達できます。
しかし、一般の電力系統を介して再エネ電力を送ることから、小売電気事業者と契約する必要があります。電気事業法の規定により、一般の電力系統を経由して需要家に電力を販売できるのは、国に登録した小売電気事業者に限られているからです。
そのため、託送料金や小売電気事業者の手数料、再エネ賦課金がかかり、需要家が負担するコストはオンサイトPPAより高くなります。

固定価格PPAと変動価格PPAの違い
PPAの電力単価の主な内訳は次のとおりです。
- ①PPA契約価格
- ②託送料金(送配電網の利用料金)
- ③バランシングコスト:インバランス(発電電力量と需要を常に一致させる)費用+容量拠出金+小売電気事業者への手数料など
- ④再エネ賦課金
- ⑤発電側課金
①のPPA契約価格は、発電コスト(再エネ設備導入費用(部材費・設計費・工事費)+運用・保守費用+撤去・廃棄費用)に、発電事業者の利益を加えた総額を算出し、この総額を契約期間中の発電電力量で除算した額で設定されることが多いです。
オンサイトPPA(100%自家消費)の場合、PPA契約価格は①のPPA契約単価のみであり、安価になるとともに、固定単価での取引となります。
オンサイトPPAの契約期間は15〜20年が一般的ですが、契約期間が長いほど契約価格は安くなり、短いほど高くなります。
オフサイトPPAのうち、フィジカルPPA(電力と環境価値をセットで購入)も契約期間中は固定のPPA契約価格で取引されます。
ただし、オンサイトPPAとは違って、PPAの契約価格は①PPA契約価格、②託送料金、③バランシングコスト、④再エネ賦課金、⑤発電側課金すべてを構成要素として設定されるため、オンサイトPPAに比べ、契約価格は高くなります。
一方、環境価値のみを購入するバーチャルPPAは固定価格PPAではなく、変動価格PPAとなることが多いです。
バーチャルPPAのPPA契約価格もフィジカルPPAと同様、①から⑤すべてが構成要素となりますが、最大の違いは発電事業者が発電した電力を卸取引市場または電力会社に売却するという点です。
当然、卸取引市場の市場価格は変動するため、PPA契約価格と発電事業者が市場で売却して得た売電収入には差額が発生します。
バーチャルPPAは、発生した差額を需要家が負担する仕組みになっており、この差額を精算する仕組みを差金決済といいます。
市場価格が下落し、PPA契約価格を大幅に下回った場合、需要家はその損失額を発電事業者に支払います。一方、市場価格がPPA契約価格を大幅に上回った場合は、発電事業者は超過収入分を需要家に支払う必要があります。
このようにバーチャルPPAは、契約上のPPA価格は固定であっても、その時々の市場価格によって、発電事業者に対して支払うコスト(契約価格との差額)が変動するため、変動価格PPAとも呼ばれています。
PPAのメリットとデメリット
CO2を排出しない再エネ電力を長期かつ固定価格(バーチャルPPA除く)で確保できるなど、PPAにはさまざまなメリットがあります。いち早く契約を締結して追加性のある再エネ電力の使用を開始すれば、その分だけ、CO2排出量を継続して削減できます。
しかし、その一方で、PPAにはデメリットも存在します。
オンサイト、オフサイトそれぞれのメリット・デメリットについて解説します。
発電事業者と購入者の双方のメリット
発電事業者および需要家双方におけるオンサイトPPAのメリットは下記のとおりです。
オンサイトPPAのメリット
託送料金、インバランスコスト、再エネ賦課金、発電側課金がかからない(100%自家消費に限る)
初期投資や運用・保守費用が不要
需要家の敷地内に発電設備を設置するため、周辺地域の自然や景観に与える影響が少ない
資源価格や電力の市場価格の変動リスクをヘッジすることができる
発電事業者にとっても、キャッシュフローを中長期に固定することができ、金融機関からのファイナンスを受けやすい
コーポレートPPAの中で、コスト低減効果が最も大きいのがオンサイトPPAです。
太陽光発電のオンサイトPPAであれば、託送料金や小売電気事業者に支払う手数料、再エネ賦課金がかからないため、通常の電気料金と比べて電力購入コストが安くなります。しかも、自家発電と違って、発電設備の建設・運用・保守・廃棄などの業務をすべて発電事業者に任せることができます。
オフサイトPPAのうち、電力と環境価値をセットで購入するフィジカルPPAは、一般の電力系統を介すため、託送料金や小売電気事業者の手数料、再エネ賦課金がかかり、オンサイトPPAよりも高くなります。その一方で、下記のようなメリットがあります。
フィジカルPPAのメリット
資源価格や電力の市場価格の変動リスクをヘッジすることができる
通常の電気料金よりも安価で購入できる可能性がある
オンサイトPPAに比べ、大規模な再エネ電力を調達できる
CO2排出量をゼロで算定できる
経済産業省の補助金対象である
環境価値だけを購入するバーチャルPPAには、フィジカルPPAにはない次のようなメリットがあります。
バーチャルPPAのメリット
従来の電力契約を継続したまま再エネ電力に切り替えられる
再エネ電力を利用する拠点を自由に選択できる
発電電力量と需要を一致させる必要がなく、夜間の電気に対しても環境価値を付与することが可能
バーチャルPPAの特徴の一つが、従来の電力契約を継続できるという点です。
複数の事業所を持つ大企業は、電力契約を一括で結ぶことで、電気料金の割引を受けているケースがあります。フィジカルPPAで電力契約を変更すると、電気料金の割引を受けられなくなる可能性がありますが、バーチャルPPAであれば、その心配はありません。
このほか、オフィスビルのテナントとして入居している場合、ビルのオーナーが電力契約を結んでいることから、テナント側に電力契約を変更する権限がなく、再エネ電力への切り替えは困難です。しかし、バーチャルPPAならば、環境価値だけ購入して、再エネ電力として利用できます。
バーチャルPPAには、環境価値を利用する事業所を自由に選べるというメリットもあります。
複数の事業所に配分したり、それぞれの事業所で使用する環境価値の量も調整することが可能です。将来、事業所の統廃合があっても、別の事業所で環境価値を使えば、無駄になりません。
利便性の高さがバーチャルPPAの大きなメリットです。

PPA契約のリスクと課題は信用基盤
オンサイトPPA、オフサイトPPAそれぞれに共通する課題が信用基盤です。
10〜20年と長期契約となることから、特に中小企業においては与信の観点から契約が困難になるケースが存在しています。
与信への課題対応としては、大企業による与信上の補完などがあります。
アメリカなどでは、アップルやアマゾンなどIT大手が、サプライチェーン全体での脱炭素化に向けて、大企業が仲介する形でサプライヤー(中小企業含む)がPPA契約を結ぶ事例が増えています。
日本においても、大企業が発電事業者やサプライヤーなどと連携し、同様の取り組みが広がるよう、支援策の検討がはじまっています。
またPPA契約期間中における需要家倒産リスクを補償する保険が2021年より販売されており、こうした保険の活用も対応策の一つです。
そのほか、共通する主なリスクが次の3つです。
天候リスク:発電電力量(計画値に対する実際の発電電力量の超過または不足)
天候リスク:出力変動(時間ごとの供給量の超過または不足)
市場リスク:出力抑制(発電設備に対する出力抑制・オンサイトPPAは除く)
運転リスク:性能低下(発電設備に運転停止や出力低下)
運転リスク:資金調達(発電事業者の資金調達不調)
運転リスク:遅延(運転開始日の遅延)
運転リスク:不可抗力(災害などによる発電設備の損壊)
現状、日本で普及するコーポレートPPAのほとんどが太陽光発電であるため、天候による発電電力量や出力の変動が第一のリスクとしてあげられます。
市場リスクはオフサイトPPA特有のものですが、出力抑制が全国規模で発生しており、発電電力量の減少を想定する必要があります。
運転リスクについては、発生した場合の復旧方法、補償などを契約時に規定しておく必要があります。災害などによる発電設備の損壊に関しては、発電事業者が損害保険に加入することで、リスク低減を図ることが可能です。
このほか、太陽光発電を設置する適地の減少や系統制約などのリスクもあります。
用地確保に向けては、再生困難な荒廃農地などの有効活用策などがあり、系統制約の解消に向けては、送配電網の増強が進められています。
バーチャルPPA特有のリスクと課題
利便性の高いバーチャルPPAですが、フィジカルPPAと比較した際、次の2つのデメリットが指摘されています。
市場価格下落リスク
会計処理上の課題
市場価格が下がり続け、市場価格が契約価格を下回ることが常態化した場合、需要家が発電事業者に対し、損失額(差額)を補填し続けなければならない可能性があります。
価格下落リスクへの対策として、バーチャルPPAとFIP(フィードインプレミアム)の組み合わせ方法があります。FIPは、発電事業者が市場価格に基づくプレミアム(補助金)を国から受け取れる制度です。
プレミアムの支払額は、市場価格が下がった場合、増える仕組みであることから、需要家が支払うコストの変動を抑える効果が期待できます。
会計処理上の課題としては、バーチャルPPAは商品先物取引に相当し、いわゆるデリバティブ(金融派生商品)契約に該当する可能性があります。日本の会計基準では、金融商品に該当した場合、時価会計で処理する必要があります。
仮にバーチャルPPAが時価会計を適用した場合、将来の市場価格の予測をもとに、契約した固定価格との差額を契約期間が終了する時点まで、計算する必要があります。
しかし、将来の市場価格を的確に予測することは不可能です。予測の変動に伴って損益の評価額が大きく変わる可能性があり、そうなると決算に影響を与えてしまいます。また、それに伴って税金の額も変わります。
時価会計で処理すべきなのか、今のところ明確な指針は出ていませんが、バーチャルPPAに時価会計を求められると、導入をためらう企業が続出すると懸念されています。

PPAの市場動向
日本におけるPPAは、2021年から急速に増えはじめています。
特に2022年のウクライナ危機をきっかけに起こったエネルギー価格の高騰を受け、電気料金が上昇。需要家は高騰リスクのヘッジおよび、電気料金の低減に向け、コーポレートPPAの採用に舵を切りました。
円安やエネルギー価格を含むインフレは今なお続いており、電気料金の長期固定化が可能なコーポレートPPAは、大企業のみならず、中小企業などにも広がっていくことが予想されています。
国内外のPPA市場の現状と展望
日本におけるPPAの導入量は、2022年度500MWだったと推計されています(出典:経済産業省「今後の再生可能エネルギー政策について」(39ページ))。
グローバルサプライチェーンや金融機関、機関投資家などから、脱炭素化や再エネ調達に対する要請が高まり、再エネ拡大は企業競争力向上に不可欠なものとなっています。
日本の大手企業は「脱炭素電源の確保は一刻を争う」と危機感を募らせています。脱炭素化を求める圧力は、大企業だけではありません。中小企業にも及んでいます。
取引先からCO2排出量の計測および、カーボンニュートラルへの協力を要請された中小企業の割合は、2020年の7.7%から2022年には15.4%に倍増しており、企業数は55万社程度にのぼったと推計されています(出典:経済産業省「GXに向けた取組と省エネ・⾮化⽯転換について」(25ページ))。
こうした危機感を背景に、需要家が電源開発に関与しながら再エネ電力を確保できるPPAは、今後、急速に拡大すると予想されています。
一方、日本企業の中から、PPAの普及遅れを指摘する声も上がっています。
2022年、全世界におけるコーポレートPPAの契約数は36.7GWとなり、全体の約3分の2をアメリカが占めました。事業に使う電力を100%再エネでまかなうことを目指す企業連合「RE100」の年次報告書(2023年)によると、再エネ調達方法について、グローバルはPPAが31%だったのに対し、日本はわずか3%と、グローバルの10分の1の水準にとどまっています(出典:JCLP「需要家企業からみた再エネ調達の課題と求める施策」(6ページ))。
RE100に加盟する日本企業は、「PPAなどを拡大し、多様な調達方法を確保しなければ、再エネ調達が困難になる」と危機感を強めています。
現状、追加性や電気料金固定化にメリットを感じ、需要家はPPAを採用していますが、さらなる普及拡大に向けては、再エネコストの低下や再エネ導入支援施策の拡充などが不可欠です。
PPAの事例紹介
日本においても、持続可能な社会と企業価値向上の実現を目指し、多くの企業がPPAの導入に取り組んでいます。オンサイトPPA、オフサイトPPA(フィジカルPPA、バーチャルPPA)それぞれの取り組み事例を紹介します。
国内での成功事例
イオン
国内で先駆けてオンサイトPPAやフィジカルPPAを導入したのがイオンです。
2019年度から国内店舗にオンサイトPPA方式による太陽光発電施設の導入を開始し、導入店舗数は累計1,327店舗(2023年度末)となっています。
また2022年からはフィジカルPPAも手がけ、遊休地などに設置した太陽光発電所から再エネ電力を調達しています。発電施設数は、低圧太陽光発電所を中心に、全国で1,390ヶ所にのぼっており、約120MWの再エネ電力をイオンモール50施設に供給しています。
イオンでは、2025年までの全店再エネ100%化を目指しており、太陽光発電以外の水力発電、風力発電を含む、大型フィジカルPPAによる調達や、オンサイトPPAのさらなる導入を検討しています(参考:イオン株式会社「AEON REPORT 2024」(55ページ))。
村田製作所
製造業の中でいち早くバーチャルPPAに取り組んだのが、電子部品メーカーの村田製作所です。
村田製作所は2022年6月、三菱商事と利便性の高いバーチャルPPAの協業化で合意し、2025年度までに70MWの再エネ電力を調達する予定です。
また2023年5月には、バーチャルPPAのさらなる拡大に向けて、再エネ発電事業者のレノバと提携し、60MW(ACベース)の再エネ電力を調達することで合意しています。
村田製作所によると、三菱商事およびレノバから調達する再エネは年間約200GWhにのぼり、バーチャルPPAとしては日本最大級の取り組みだとしています(出典:株式会社村田製作所カーボンニュートラル社会の実現に向けた協業の枠組みに合意~日本最大級のバーチャルPPAを活用した再生可能エネルギー由来の電力調達に関する検討を開始~」)(出典:株式会社村田製作所「追加性を重視したバーチャルPPAをレノバと締結 ~新規開発のNon‐FITおよびFIP太陽光発電所から環境価値を調達し再エネ化を加速~」)(参考:株式会社村田製作所「ムラタの気候変動対策と再エネ調達戦略」(13ページ))。
ヒューリック
フィジカルPPAに取り組み、2023年5月、RE100を達成したのが不動産大手のヒューリックです。
ヒューリックでは、自社グループのヒューリックプロパティソリューションが小売電気事業者となり、再エネ電力を買い取り、ヒューリックの保有建物に売電する「自社グループ完結型コーポレート(フィジカル)PPA」と呼ぶモデルを構築しています。
これにより、長期的に安定して再エネ由来の電力の確保が可能になるとしています。
ヒューリックでは、2029年までにオフィスや商業施設など、全保有物件の100%再エネ化を目指しており、約660億円を投資し、太陽光発電や小水力発電などの電源開発を進める計画です(参考:ヒューリック株式会社)。
国際的な事例とその影響
国際的な金融市場からの脱炭素化要請は高まっており、日本においても、企業に気候変動対策に関する情報開示を促す「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」が、2022年4月から東証プライム市場の上場企業に義務づけられています。
さらに世界では、上場企業に対し、取引先などサプライチェーン全体のCO2排出量の把握や削減対策に関する情報開示を求める動きが進展しており、日本企業に対しても、サプライチェーン全体での脱炭素化の要請が高まりつつあります。
すでにアップルなどは、サプライヤーに2030年までの再エネ100%化を求めており、対策が不十分であれば、サプライチェーンおよびグローバル市場から締め出される可能性が出てきています。
取引先への要請は、ソニーグループやトヨタ自動車、日立製作所、積水ハウスなど日本の大手でも開始しており、再エネ電力の調達は経営上の必須要件となっています。
こうしたニーズを満たすためにもPPAのさらなる促進が不可欠となっています。
PPA契約の進め方
PPA契約の進め方について、オンサイトPPA、オフサイトPPAそれぞれで太陽光発電設備を導入する事例をもとに、解説します。
PPA契約締結のステップ
PPA契約のステップは、大きく①自社の年間電力需要を把握(消費量・ピーク負荷など)、②スキーム選定(オンサイト/オフサイト、固定/変動)、③契約条件の交渉(価格、契約期間、環境価値証書の扱い)、④設備導入・運用開始となります。
この章では、それぞれのステップの詳細を説明します。
①自社の年間電力需要を把握(消費量・ピーク負荷など)
PPAを導入する第一歩は、自社の電力需要の正確な把握です。
年間消費電力量や月別の使用量の変動、さらに工場やオフィスにおけるピーク需要(最大需要電力)を分析します。これにより、どの程度の発電容量が必要かを算出でき、最適なPPAスキームを選定するための基礎データとなります。
例えば、年間1,000万kWhを使用する企業が太陽光オンサイトPPAを導入する場合、平均的な設備容量(1MWあたり年間100万kWh程度)から必要な規模感を見積もることが可能です。
②スキーム選定(オンサイト/オフサイト、固定/変動)
需要データをもとに、どのPPAスキームが最適かを検討します。
オンサイトPPA:自社敷地に十分な設置面積がある場合に有効です。
オフサイトPPA:敷地外の大規模発電所から電力を供給。大規模需要に対応できる一方で、託送料金や証書の取り扱いも考慮する必要があります。
③契約条件の交渉(価格、契約期間、環境価値証書の扱い)
スキームが決まったら、契約条件の詳細を交渉 します。主なポイントは以下の通りです。
価格設定:固定価格か変動価格か、またはそのハイブリッド型にするか。
契約期間:一般的に10〜20年。企業の事業計画や投資回収計画と整合性が取れているかを確認。
環境価値証書(非化石証書など)の帰属:購入企業側が環境価値を主張できるかどうかは、RE100や温室効果ガス削減報告に直結します。
その他条件:契約解除条項、不可抗力(フォースマジュール)、メンテナンス責任の所在など。
契約段階では、法務部門や専門コンサルタントと連携することが成功のカギとなります。
④設備導入・運用開始
契約が締結された後は、実際の設備導入と運用開始に移ります。
オンサイトPPAでは太陽光パネルや電力制御システムの設置工事が行われ、オフサイトPPAでは送配電網を通じた契約電力の受給体制を整えます。
導入後は、需給管理や発電量モニタリング、環境価値レポートの作成など、運用に必要な体制を構築することが不可欠です。また、契約期間中は定期的に発電実績やコスト削減効果を評価し、必要に応じて改善策を講じることが求められます。
PPA契約時における注意点
PPAを契約する際、主な注意事項は次のとおりです。
発電量リスク
PPA事業者倒産リスク
メーカー倒産リスク
物価変動リスク
金利変動リスク
実際の発電量が想定を下回った場合、企業は再エネ電力を予定通り購入することができず、系統からの電力購入量を増やす必要があります。この場合の補償内容について、契約前に確認しておくことが大切です。
万が一PPA事業者が倒産し、設備が担保に入っていた場合、別の事業者に権利を譲渡してPPA事業を継続させることが困難になる可能性があります。担保設定の有無を確認し、担保設定がされている場合は、倒産時の措置内容を確認する必要があります。
また太陽光パネルやパワーコンディショナなどのメーカーが倒産した場合には、メーカー保証が受けられなくなります。さらに修繕の際、同一の部品が入手できなくなる可能性もあるため、仮にメーカーが倒産しても、当初提案通りの事業内容を実施できることを、あらかじめ確認しておきましょう。
物価変動が生じた場合、維持管理費用が当初の見込みから変動するため、通常は電気料金単価の変更協議が行われます。ただし、変更協議に応じる契約になっていると、余計なリスクを抱えることにもなるため、著しい変動があった場合のみ協議を行う、など契約内容についても対策を講じておく必要があります。
また著しい金利変動が生じた場合、事業者の費用回収が間に合わず、単価変更協議の申し入れが行われる可能性もあります。単価変更に応じるのか、事前に対応策を検討しておく必要があります。
一方、PPA事業者が負担するリスクが増えるほど、契約単価は高くなります。企業においても、負担や協議が可能な事項がないのか、事前に検討することも重要です。
PPAを自社のみで締結するには、PPA事業者の選定から契約交渉、事業者との調整など、契約内容の合意に達するまで、多くの時間と手間がかかります。
FPSのコーポレートPPAサービスでは、これらの一括コーディネートも可能なため、ノウハウがなくてもコーポレートPPAの導入が可能になります。
FPSのコーポレートPPAサービス
コーポレートPPAの導入を検討しても、スキームが複雑で「何から始めればいいのか分からない」という声をよく耳にします。FPSは10年以上の供給実績と需給管理ノウハウを活かし、複雑な再エネ活用スキームをシンプルにかつ確実に実現します。
当社では以下のような多様なPPAモデルをご用意しています。
オンサイトPPA、オフサイトPPAの両方に対応
太陽光発電以外の、風力発電・バイオマス発電など多種多様な電源をご用意
余剰電力の買取や、不足電力の再エネ融通、複数の発電所と需要場所間など、柔軟な運用が可能
コーポレートPPA導入に関するご相談は、ぜひ当社までお気軽にお問い合わせください。
-
【再エネ取り組みロードマップ紹介】
資料ダウンロード弊社での導入事例を元にRE100達成までの
道のりをご説明します。 -