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2025.09.04

脱炭素とは?推進の背景と各国・各企業の取り組み

脱炭素とは?推進の背景と各国・各企業の取り組み

2024年夏、日本の平均気温は平年を1.76℃上回り、2年連続でもっとも暑い夏となりました。2025年の夏も引き続き過去にない猛暑が続いています。気温の上昇は日本のみならず、世界中で起こっています。世界気象機関(WMO)は2024年1〜9月の世界平均気温が産業革命前と比べて1.54℃高くなり、温暖化の加速が異常気象をもたらし、世界中のコミュニティや経済が危機に直面していると警鐘を鳴らしました。
温室効果ガス排出削減に向けた対策強化が急務となる中、鍵を握るのが脱炭素社会への転換です。
今回は、脱炭素社会への転換について、日本や世界各国の取り組み状況や実現に向けた道筋などを解説します。

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脱炭素とカーボンニュートラルの違いとは?

脱炭素社会とは、地球温暖化や気候変動の原因となる温室効果ガスの排出を可能な限り削減し、最終的にCO₂などの排出量と吸収・除去量を均衡させた社会を指します。この「排出量を実質ゼロにする」状態をカーボンニュートラルと呼ばれ、植林やCCUSといったCO2の吸収・回収、貯留・再利用技術を活用することで実現を目指します。そして、脱炭素とはカーボンニュートラルを達成するための省エネ、再エネ導入、電化などの取り組み全般を指します。


CCUSとは、「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、工場や発電所などから排出されたCO2を回収し、再利用、または地下に貯留する技術の総称です。
CO2を再利用してつくられる燃料は、合成燃料と呼ばれ、ガソリンや都市ガスに利用され、脱炭素化につながると注目されています。

脱炭素が求められた背景

温暖化によって大寒波や猛暑、豪雨や洪水などの異常気象が猛威を振るい、長期にわたって人間社会に負の影響を与え続けることが科学的に明らかになったことで、2015年、国際的な気候変動の枠組み『パリ協定』が採択されました。
パリ協定をきっかけに、「CO2排出量を従来よりも減らすことを目標とする『低炭素社会』だけでは温暖化の進行を十分に止められない。温暖化を抑えるには『脱炭素社会』への転換が不可欠である」ことが国際社会の共通目標となったのです。

脱炭素の意味と重要性が急速に広がったことで、日本をはじめ世界各国は脱炭素社会の実現に向けて本格的に動きはじめました。

気候変動が経済社会に及ぼす影響について、科学的見解を提供する国連の機関「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、これまでさまざまな報告書を発表し、下記のように指摘しています。
第4次評価報告書(2007年):「気候システムの温暖化現象は疑う余地がないことであり、それが人為起源温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性が非常に高い」(出典:環境省「IPCC第5次評価報告書の概要」(6ページ)
第5次評価報告書(2014年):「CO2の累積総排出量と世界の平均気温の上昇は比例関係にある」(出典:環境省 地球環境局「IPCC第5次評価報告書について」(8ページ)


第4次評価報告書は、「温室効果ガスに占めるガス別排出量の割合は、CO2が76.7%を占めており(出典:JCCCA「温暖化とは?地球温暖化の原因と予測」、人間が化石燃料を燃やす限り、CO2は大気中にとどまり続け、気温が上昇し続ける」(出典:環境省「IPCC第4次評価報告書 統合報告書概要(公式版)」(34ページ以降)と指摘しました。
さらに第5次評価報告書では、「CO2排出による温暖化を、産業革命以前と比べ、平均2℃未満に抑えるためには、CO2累積排出量を約2,900ギガトン(2.9兆トン)に制限する必要がある」としたうえで、「2011年までのCO2累積排出量は1,900ギガトン(1.9兆トン)であり、2012年以降、世界全体での累積排出量を約1,000ギガトン(約1兆トン)に抑える必要がある」とカーボンバジェットという指標を提唱しました(出典:中央環境審議会地球環境部会「長期低炭素ビジョン」(12ページ)

カーボンバジェット(炭素予算)とは、地球の気候や環境に深刻なダメージを及ぼさない範囲で、今後排出してもよいとされるCO2の累積上限量です。
第5次評価報告書は、「毎年、世界で約10ギガトンが排出されており、このままの排出が続けば約30年でカーボンバジェットを使い切る」と訴えました(出典:環境省 地球環境局「IPCC第5次評価報告書について」(8ページ)

脱炭素は、私たち人間やすべての生物の生存基盤を揺るがす気候変動を食い止める唯一の解決策という認識が、気候科学の発展によって広がりました。

脱炭素化は企業存続のために不可欠な取り組み

IPCCは2018年10月、1.5℃特別報告書を公表し、「1.5℃上昇であっても、健康、生計、食糧安全保障、水供給、経済成長などに対する気候関連リスクが増加し、2℃上昇ではさらにリスクが増加する」(出典:国立環境研究所 地球環境研究センター「1.5°C特別報告書のポイントと報告内容が示唆するもの」と指摘しました。
こうした指摘を受け、2021年11月に開催されたCOP26(第26回 気候変動枠組条約締約国会議)において、世界の平均気温の上昇を1.5℃未満に抑える努力を継続することを各国に求める「グラスゴー気候合意」が採択されました。これにより、「1.5℃目標」が気候変動対策における国際的な重要目標として改めて位置づけられ、象徴的なシンボルとなっています。

しかし、経済活動に伴うCO2の排出は止まらず、気温は上昇し続けています。
2024年夏(6〜8月)、日本の平均気温は平年を1.76℃上回り、2年連続でもっとも暑い夏となりました(出典:気象庁 「2024年夏(6月〜8月)の天候」
気温の上昇は日本のみならず、世界中で起こっています。
世界気象機関(WMO)は2024年11月、2024年1〜9月の世界平均気温が産業革命前と比べて1.54℃高くなり、パリ協定が目指す「1.5℃目標」が危機的状況にあると警鐘を鳴らしました(出典:WMO 「State of the Climate 2024 Update for COP29」

気候変動はひとたび起これば巨額の経済損失をもたらします。
2023年、世界で398件の大規模自然災害が発生し、3,800億ドルの経済損失をもたらしました(出典:AON 「Number of Billion-Dollar Disasters in 2023 Highest on Record: Aon Report」。気候変動はすでに経済・金融にとって巨大なリスクとなっています。

日本においても、大規模な自然災害が発生しています。日本損害保険協会の発表によれば2018年・2019年の自然災害による保険金支払額は、2年連続で1兆円を超えました。また、2023年度の保険金支払額は952億円(出典:一般社団法人 日本損害保険協会「2023 年度に発生した風水災等に係る各種損害保険の支払件数・支払保険金等について」であり、日本損害保険協会は、「火災保険の収支は大幅な赤字が常態化している」(出典:一般社団法人 日本損害保険協会「「令和 7 年度税制改正要望」を決定」(1ページ)と述べています。
仮に火災保険の引き受けが困難になれば、企業は自然災害による損失をすべて自社で負担しなければならなくなります。

気候変動は建築物や生産拠点などに被害を与えるだけでなく、交通・電気・ガス・水道などのインフラ機能を寸断し、企業の経済活動に多大な影響を及ぼします。社会の安定性が失われると、経済や企業の発展は望めません。

脱炭素に向けた取り組みは、社会経済や企業の存続のために不可欠だという認識が広がり、国や地域、企業や投資家、一般消費者などあらゆる主体を巻き込み、世界は脱炭素へと舵を切ったのでした。

脱炭素の国内外の取り組み

人類は産業革命以降、化石燃料を燃やし、CO2を排出しながら経済発展を遂げてきました。
脱炭素社会への転換とは、化石燃料と一体化し築き上げてきた社会経済を2050年までのわずかな間に大転換させることであり、非常にチャレンジングで困難も伴いますが、日本をはじめ世界各国が脱炭素に向けた取り組みを加速させています。

日本における脱炭素政策

2020年10月、菅義偉元首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」をきっかけに、日本も脱炭素に大きく舵を切りました。
2021年4月には、温室効果ガス排出量を2030年度までに2013年度比で46%削減し、2050年には実質ゼロにするという目標が掲げられます。
目標達成に向け、中長期的なエネルギー政策の指針である「第6次エネルギー基本計画」を策定し、2050年の脱炭素に向けて、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入し、2030年度の電源構成を36〜38%にするなどの計画を示しました。

脱炭素と経済成長の同時実現を目指し、政府は2兆円の「グリーンイノベーション基金」(2021年3月時点)を創設し、これまでに下記のプロジェクトを組成して、民間企業のイノベーションを支援しています。

  • グリーンスチール実現に向けた水素還元製鉄
  • 日本発の次世代型太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」
  • 水素を大量に輸送する液化水素運搬船
  • 石炭火力やLNG火力の脱炭素化を目指す「水素・アンモニア発電」
  • 次世代蓄電池「全固体型蓄電池」

2023年7月、脱炭素とエネルギーの安定供給、そして経済成長の3つを同時に実現させるため、「GX推進戦略」を閣議決定しました。
GXとは「グリーントランスフォーメーション」の略称で、脱炭素社会への移行と経済成長の両立を目指す、日本独自の産業政策です。今後10年間で官民あわせて150兆円以上の投資を集め、CO2排出量が多い産業の構造転換や、エネルギーの安定供給に向けてペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力の社会実装化、核融合など次世代原子力技術、石炭火力の脱炭素化など、幅広い分野で企業を支援する政策です。

民間投資を呼び込むため、政府は総額20兆円を支援する予定で、その財源となるのが「GX経済移行債」と呼ばれる新たな国債です。第一弾として2024年2月に8,000億円分が発行されており、今後10年間にわたり発行される予定です。

また、2025年2月には、政府は2040年に向けた脱炭素化や産業政策の方向性を示す国家戦略「GX2040ビジョン」および、それと整合する形で策定された「第7次エネルギー基本計画」を閣議決定しました。第7次エネルギー基本計画では、2040年度時点での温室効果ガス排出量を2013年度比で73%削減するという目標とともに、再生可能エネルギーを40〜50%、原子力を約20%、火力を30〜40%という電源構成の見通しが示されています。こうしたエネルギー政策を産業別の移行戦略として具体化し、経済成長につなげるGXビジョンを策定することで、政府は「官民で共有する脱炭素への現実的なルートを示す」方針です。

世界各国の脱炭素戦略

世界各国も経済成長との同時実現を目指し、脱炭素戦略を加速させています。

アメリカ
アメリカはバイデン政権のもと、2022年8月インフレ削減法(IRA)を施行し、再生エネルギーや原子力、クリーン水素などへの支援として、気候変動対策やエネルギー安全保障に対して10年間で総額約3,690億ドルの支援策を講じるとしました。
IRA法における支援例は下記のとおりです。

  • 再生エネルギー発電への税額控除
  • 原子力発電への税額控除
  • クリーン水素製造への税額控除
  • クリーンエネルギー関連製造業への税額控除・補助金支援

アメリカ財務省によると、バイデン政権成立以降、約3,600億ドル以上のクリーン投資が生み出され、2023年9月時点で21万人以上の雇用が創出されたとしています(出典:経済産業省「エネルギーを巡る状況について」(24ページ)
しかし、2025年1月に再就任したトランプ次期大統領就任直後にパリ協定からの再離脱を開始し、IRAによる制度と資金の大幅な後退を進めています。

EU
EUはロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシア産化石燃料からの脱却、そして脱炭素とエネルギー安全保障の実現を目指し、2022年5月「REPowerEU計画」を公表しました。
REPowerEU計画に基づく2030年目標は次のとおりです。 温室効果ガス排出削減目標:55% 再エネ比率:45% 太陽光発電導入量:約600GW 風力発電導入量:約510GW 水素消費量:2,000万トン 参考:経済産業省「エネルギーを巡る状況について」(28ページ)

その一方で、EU各国内では、気候変動対策や環境規制が生産コストを増加させ、国際競争力を低下させているとして反発が強まっています。
マクロン仏大統領は、2024年4月「今のままでは欧州は米中との経済競争に敗れて貧困化する恐れがある。将来性のある産業部門を米中が大量に資金を投入して支援しているのに対し、欧州は遅れを取っている。官民の巨額投資を支えるため、EUレベルでの共同の投資プランを実現する必要がある」と訴えました。
参考:経済産業省「エネルギーを巡る状況について」(27ページ)

脱炭素を牽引してきたEUでしたが、急速な転換が経済に負の影響を与えており、見直し機運が高まりつつあります。

フランス
フランスは2023年11月、化石燃料からの脱却および再エネ電力の拡大などを図るため、「エネルギー気候戦略」を公表しました。エネルギー気候戦略の概要は次のとおりです。 省エネ:2030年のエネルギー消費量を2012年比で30%削減 石炭火力:2027年に廃止 原子力:2030年に発電量を現行の279TWhから360〜400TWhまで拡大 再エネに関しては、2035年の設備容量目標として以下を設定しています。 太陽光発電75〜100GW 陸上風力:40〜45GW 洋上風力18GW 水力発電29GW 参考:経済産業省「エネルギーを巡る状況について」(30ページ)

ドイツ
ドイツは2023年4月、原子力発電3基の閉鎖期限を迎え、脱原発を完了しています。さらに再エネ法を改正し、2030年に電力の再エネ比率を80%まで引き上げることを表明するなど、再エネ中心のエネルギー政策を進めています。
エネルギー政策の概要は次のとおりです。
石炭火力:早ければ2030年まで、遅くとも2038年までに廃止
省エネ:最終エネルギー消費量を2030年までに26.5%削減(2008年比)


2030年の再エネ導入目標として以下を設定しています。 太陽光発電:215GW 洋上風力:30GW 陸上風力:115GW 参考:経済産業省「エネルギーを巡る状況について」(31ページ)

しかし、ドイツでは原発停止、ロシア産天然ガスの輸入激減などにより、エネルギー価格が高騰。生産拠点の海外移転が加速し、経済に大きな影響を与えています(参考:経済産業省「エネルギーを巡る状況について」(32ページ))
エネルギー政策は企業活動に大きな影響を及ぼすことから、脱炭素化と競争力強化を両立する計画策定が急務になっています。

イギリス
2024年7月に政権交代した労働党は、クリーンエネルギー投資を経済成長の旗艦ミッションと位置づけ、再エネ、原子力、炭素回収などへの投資、地域再エネプロジェクトへの開発支援などを実施しています。
イギリスのエネルギー政策の概要は次のとおりです。
原子力:2050年までに最大24GWを導入。電力需要の25%を原子力で供給することを目指す
火力:2024年9月末、すべての石炭火力発電所を廃止(G7初)


また政権交代に伴い、再エネの導入目標を引き上げており、2030年までの導入目標として以下を設定しています。 洋上風力4倍(55GW) 陸上風力2倍(35GW) 太陽光発電3倍(55GW) 参考:経済産業省「エネルギーに関する国際動向等について」(23ページ)

脱炭素技術の最前線

日本の再エネ導入量は拡大しており、2023年度には電源構成比で22.9%になりました(参考:経済産業省「次期エネルギー基本計画の策定に向けた これまでの議論の整理 (再生可能エネルギー関係) 」(6ページ))
しかし、2030年度の再エネ比率36〜38%を達成するには今後もさらなる拡大が必要です。半導体工場やデータセンターなどの建設が相次ぎ、電力需要が増加していく見通しです。
政府は、脱炭素化とあいまって、大規模な電源投資が必要だとしています。

脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかどうかが国力を大きく左右する時代に入っています。再エネの導入拡大に向けて、建築物の屋根や壁面、水深の深い海域への設置など、イノベーションの加速が求められています。

再生可能エネルギーの活用

再エネの主力電源化の切り札と位置づけられたのが、日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」と洋上風力です。

ペロブスカイト太陽電池は薄くて軽く、折り曲げられるのが特徴で、建築物の壁面などに設置できることから、国土の狭い日本に適しているとされ、次世代太陽電池として注目が高まっています。
ペロブスカイト太陽電池には次の3つの特徴があります。

  • 製造工程が少なく、大量生産できるため、コストダウンが可能
  • プラスチックなどの軽量基板の利用が容易であり、軽くて柔軟
  • 主要な材料であるヨウ素の生産量は、日本が世界シェア2位

日本のGXの牽引役になるとして、経済産業省は量産技術を確立し、課題であるコストを従来の太陽電池並みに引き下げ、2040年には約2,000万kWまで普及させるとしています。
政府は、2025年2月に発表した第7次エネルギー基本計画において、ペロブスカイト太陽電池を再エネ拡大に向けた柱の一つとして位置づけました。
参考:経済産業省「エネルギー基本計画」(33ページ)

再エネ導入拡大に向けたもう一つの切り札が、洋上風力です。
海に囲まれた日本にとって、洋上風力は大規模な導入が期待できる貴重な再エネです。
部品点数が数万点にものぼるうえ、日本が高い技術競争力を持つ鉄鋼や重電、機械産業などを活かせることから、経済波及効果も大きく、新たな成長産業としても期待されています。

政府は従来の導入目標を大幅に引き上げ、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000〜4,500万kWに増やす目標を打ち出しています。
しかし、日本は遠浅の海が少ないため、大量に導入するには、風車の土台を海底に固定する「着床式」だけでなく、海に浮かべる「浮体式」の技術開発が欠かせません。
そこで、グリーンイノベーション基金を活用して、浮体式洋上風力の実証事業を実施し、コスト低減ならびに大量生産に向けた技術確立に取り組んでいます。
さらに、日本の海域に広がるEEZ(排他的経済水域)でも洋上風力を導入できるよう、法改正に向けた準備も進めています。

政府は、再エネなどの脱炭素電源の供給力を抜本的に強化しなければ、脱炭素化時代における電力の安定供給は不透明になると危機感を強めており、ペロブスカイト太陽電池や洋上風力の導入拡大を急ぐ考えです。

エネルギー効率の向上とイノベーション

脱炭素社会の実現に向けては、再エネの導入拡大とともに、エネルギー利用の効率化とイノベーションも欠かせません。
政府は徹底した省エネ対策を推進し、2022年度3.1億キロリットルだった最終エネルギー消費量を2030年度までに2.8億キロリットルに削減するとしています。
参考:経済産業省「更なる省エネ・非化石転換・DRの促進 に向けた政策について」(10ページ)

エネルギー利用の効率化に向けて期待される取り組みが次の3点です。 DX・生産性の向上 輸送部門の電動化 建物断熱性能の向上
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略称で、デジタル技術を駆使して社会変革を目指す取り組みです。脱炭素社会の実現には、デジタル化によるエネルギー利用の効率化が欠かせません。

例えば、AIを活用して生産計画と需要予測を分析し、仕入れと生産の最適化を図ることで、過剰生産や過剰在庫が削減できます。無駄なエネルギー消費を抑えることができ、食品ロスなども減らすことができます。
また、DXにより運送や配送ルートの最適化を図ることで、車両からのCO2排出量を削減できます。
自動車やドローン、航空機、鉄道などの輸送部門の電化による自動制御が進めば、消費者の利便性を高めるだけでなく、サプライチェーンや流通業における消費電力やCO2排出量の削減にもつながります。

住宅などの屋根や外壁、窓などの断熱性能の向上は、エネルギー消費量の削減のみならず、ヒートショックの防止などにより、健康リスクの低減を図ることも可能です。

脱炭素社会の実現には、企業のみならず一般消費者も含めたさまざまな活動の中で、DXを用いて環境情報の計測および予測を行いつつ、エネルギー利用の効率化や人・モノの移動の削減を図ることが重要です。

脱炭素への経済的影響

脱炭素社会への転換は、化石燃料と一体化して経済発展を遂げてきた社会経済構造を2050年までのわずかな間に、新たな社会に転換させるという壮大な挑戦です。
急激な転換は産業構造の変化や雇用構造の変化をもたらし、さまざまな摩擦を生じさせることが予測されています。

脱炭素経済への移行に伴う利点とコスト

脱炭素経済への移行は、企業に対し、新たな資金調達や中長期的な成長などさまざまなメリットをもたらします。
脱炭素経済への移行がもたらすメリットは次のとおりです。
優位性の構築(競争力強化、成長資金の調達機会拡大、売り上げ・利益の拡大) エネルギーコストの削減 ブランディングの強化 人材獲得力の強化
洪水や豪雨などの気候変動は、被害を受けた企業の資産価値を低下させます。金融機関は信用リスクの高まりを受け、融資を貸し渋り、資金調達が困難になった企業の資産価値はさらに低下します。投資家は市場に対する信頼を喪失し、資産を投げ売り、その結果、金融機関にも大きな損失が発生します。
このように、気候変動はマクロ経済に大きな影響を与えるとされています。

また、CO2を多く排出する化石燃料などの産業は訴訟リスクや賠償責任リスクも抱えており、座礁資産化する恐れもあります。座礁資産化すれば、その資産を持つ企業は減損処理を迫られ、その企業へ投融資する投資家や金融機関にも損失が発生するリスクがあります。

気候変動は金融の安定性に大きな影響を与える可能性があり、そのため投資家や金融機関は取引先企業に対し、CO2排出削減など、脱炭素経済への移行を求める動きを加速させています。

脱炭素化への取り組みは、成長資金の調達機会を拡大させ、自社製品の競争力の確保や強化につながります。さらにグローバルサプライヤーに対しても訴求力の向上が図れ、取引機会が拡大するなどのメリットをもたらし、企業成長の源泉になります。

一方、脱炭素社会の実現に向けては、多額の資金供給(ファイナンス)が必要です。
再エネ転換をはじめ、CO2多排出産業の省エネ・燃料転換など脱炭素経済への移行には、今後10年間で150兆円を超える投資が必要だとされています。

産業界への影響と対策

脱炭素化に伴う転換は、産業構造や雇用構造に影響を与えると予想されています。
CO2の削減が難しい産業は縮小・撤退を余儀なくされる恐れがあり、その過程で失業者が発生することも考えられます。

自動車産業への雇用影響について、豊田章男日本自動車工業会会長(当時)は2021年3月、脱炭素化の流れに対して適切な対応がとられなければ、「国内生産約1,000万台のうち約半分に相当する輸出分の生産が海外にシフトし、自動車業界550万人のうち100万人の雇用を失う可能性がある」と述べています。
参考:一般社団法人 日本自動車工業会「カーボンニュートラル 自工会発信メッセージ」

また、電力(火力発電)や石油精製、鉄鋼、化学、鉱業、紙・パルプなどの産業でも雇用が失われる可能性があると指摘されています。

産業や社会変革に伴って発生する労働移動を、スムーズかつ誰一人として取り残さず公正に行うことが求められています。
労働資源の円滑な移行は、「公正な移行(Just Transition)」と呼ばれており、実現に向けては以下の政策が必要です。

  • 失業なき労働移動促進策の強化
  • リスキリング政策の強化
  • 社会保障制度の再構築

脱炭素社会の実現に向けた課題

電力の70%以上を火力発電に依存する日本において、脱炭素社会の実現には、エネルギーの脱炭素化や産業部門の変革など、多くの課題を抱えています。 また、急激な転換は経済の低迷、生産拠点の海外流出に伴う産業の空洞化、失業、金融不安などさまざまな弊害をもたらします。

政策的障壁と社会的課題

脱炭素社会の実現に向けた政策として、次のものがあげられます。 電源の脱炭素化および再エネの導入拡大 カーボンプライシングなどの規制措置
「電源の脱炭素化および再エネの導入拡大」について、日本は一次エネルギーの80%以上を化石燃料に依存しており、脱炭素社会に向けて、再エネの導入拡大が欠かせません。しかし、日本の再エネ比率は2023年度時点で22.9%にとどまり、普及スピードは鈍化しています。特に再エネ普及を牽引した太陽光発電の導入量が近年、低迷しています。2023年度の新規導入量は約3GWにとどまりました(参考:経済産業省「次期エネルギー基本計画の策定に向けたこれまでの議論の整理(再生可能エネルギー関係)」(84ページ)。このままのペースで推移すると、2030年度の再エネ比率36〜38%という政府目標に届かない可能性があります。

再エネ導入のために実施した規制緩和や政策の効果が十分に出ておらず、経済産業省の審議会では「追加政策なしでは、目標達成は困難だ」と指摘する声があがっています。
電源の脱炭素化に向けては、住宅や工場屋根への太陽光発電の設置義務化など、より強い規制が必要だとする意見も出ています。

また、再エネ導入には送電網の増強が欠かせません。
政府は、北海道と東京をつなぐ送電網に1兆5,000億円から1兆8,000億円を投じて日本海に海底ケーブルを敷設する計画です。
九州と中国地方をつなぐ送電網にも3,700億円から4,100億円を投じて増強する予定であり、2050年までにおよそ6兆円から7兆円の投資が必要になると見込まれています(参考:経済産業省「次期エネルギー基本計画の策定に向けたこれまでの議論の整理(再生可能エネルギー関係)」(7ページ)「電力ネットワークの次世代化について」
さらに、送電網に対する多額の投資も課題となっています。

政府は、脱炭素電源の抜本的強化に向けて、原子力発電の最大限の活用も方針に掲げています。
安全性が確認された原発の再稼働を目指すとともに、新たな原発の建設についても、廃炉となる原発の建て替えを念頭に、次世代炉などの建設を進めていく考えです。
しかし、再稼働、何より原発の新増設については、国民をはじめ地元自治体の理解が不可欠であり、政策的障壁の一つになっています。

もう一つの政策が、「カーボンプライシングなどの規制措置」です。
カーボンプライシングとは、企業などがCO2の排出量に応じてコストを負担する仕組みです。
政府は、GX推進戦略において、企業などが排出量を削減した分を市場で売買できる「排出量取引」と、化石燃料を輸入する電力会社や石油元売り会社などから、排出量に応じて「炭素賦課金」を徴収する制度を柱の一つにしています。
しかし、産業競争力の低下につながるといった経済界からの反発に配慮した結果、排出量取引の本格化は2026年度以降に、排出枠の一部有償割り当ては2033年度からと、先送りされました。
2030年度CO2削減目標への貢献度は限定的であり、カーボンプライシングの早期導入を求める声があがっています。

脱炭素社会の実現に向けた社会的課題とは?

社会的課題としては、次のものがあげられます。 産業・運輸部門の変革 公正な資金供給(Transition Finance) 公正な移行(Just Transition)
製造業は日本のGDPの2割弱を占める基幹産業ですが、鉄鋼や化学、セメント、紙・パルプ、自動車、航空・海運部門は排出削減が困難なセクターと呼ばれています。
製造過程で大きなエネルギーを必要とし、原料に多くの化石燃料を使用しているためです。
産業・運輸部門は、製造方法の抜本的な変革や代替燃料の開発など、イノベーションの加速が欠かせません。自動車産業は電気自動車や燃料電池自動車の開発や、蓄電池の技術革新に力を注いでいます。鉄鋼業界では、グリーンスチールの製造に向け、水素還元製鉄などの技術開発を進めています。
こうした取り組みには、巨額の研究開発費や設備投資が必要となり、それを支える資金調達=トランジション・ファイナンスが普及しなければ、産業・運輸部門の変革も実現しません。

CO2の削減が難しい産業は縮小・撤退を余儀なくされる恐れがあります。その過程で発生する失業者を誰一人残さず、公正に労働移動させる取り組みも社会的課題となっています。

持続可能な脱炭素社会への道筋

政府は、持続可能な脱炭素社会への道筋として、脱炭素を進めつつ、最大限の経済成長を目指すことが必要だと述べています。
経済成長を実現するうえで、次の2点の環境整備が欠かせないと強調しています。

  • GX・DXなどによる技術革新を進展させ、海外と比べて高いエネルギー価格のコスト低減を図る
  • エネルギー多消費産業の衰退を食い止め、脱炭素製品など新たな付加価値を創造し、海外展開・シェア向上を加速させる

GX・DXを加速し、ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力をはじめ、水を電気分解して水素を製造する水電解装置や燃料電池などの量産化、そしてコスト低減を図ることで、安価で大量の再エネ・水素の普及を目指すとしています。

安価で大量の再エネ・水素の供給によって、鉄鋼や化学、セメント、紙・パルプ、非鉄金属などのエネルギー多消費産業の衰退を食い止める。これが経済成長の軌道に乗るための必須条件だとしています。
さらに日本国内に新たな産業のサプライチェーンを構築し、脱炭素製品など新たな付加価値を創造することで、海外展開・市場を獲得することが重要だとしています。

仮に上記2つの環境が整備されず、脱炭素のみを先行させれば、国内産業は空洞化し、低成長に陥ると危機感を強めています。

脱炭素と社会の未来

人為的温室効果ガスの増加が、温暖化を引き起こしてきたことは疑う余地がなく、CO2を排出し続ける限り、気候は暴走し、損失と損害をもたらし続けることが、IPCCなどの科学的知見によって明らかとなりました。
脱炭素とは人類の存亡をかけた転換であり、よりよい未来を切り開くための唯一の解決手段でもあります。

脱炭素化の長期的なビジョン

戦後、日本は化石燃料を燃やし、CO2を排出することで経済発展を遂げてきました。
化石燃料と一体化した経済発展で築き上げた経済社会体制を、2050年までの間に脱炭素社会に転換する必要があります。
しかし、残り30年足らずの間に、これまでの経済社会体制を強制的に転換させることは、エネルギー多消費産業や雇用構造に大きな変化をもたらす恐れがあります。
また、すべての産業が一足飛びに脱炭素化が可能なわけではなく、トランジション期においては、LNG火力など、必要な技術を導入しながら、最大限排出削減を進める必要もあります。

政府は、2025年2月に、2040年に向けた脱炭素化や産業政策の方向性を示す「GX2040ビジョン」と第7次エネルギー基本計画を策定しました。
この中で、2035年にはCO2排出量を2013年度比60%削減、2040年には73%削減といった水準が示されています(参考:経済産業省:「シナリオ分析について」(4ページ)

市民と企業の役割と責任

企業活動に伴うCO2の排出は温暖化を加速させ、気候を暴走させ、企業の経営や財務に重大な影響を与えています。
企業にとって、脱炭素化への取り組みが、新たな成長資金の獲得や長期的な利益確保につながり、逆にグリーンでない事業は経営上のリスクとみなされるようになっています。

このように、気候リスクと企業経営が結びついたことで、脱炭素化への取り組みと企業の存続が直結するようになり、企業や投資家、金融機関はより積極的に、みずからの利益のためにCO2の削減に向けた行動を加速させています。

FPSの脱炭素化取り組みサービス

今後、さらに企業の脱炭素化が必要となる上で、ライフラインである電気に再エネを導入することが、脱炭素化の大きな一歩となります。

FPSでは、現在の電力契約を変更せず、使用している電気を実質再エネ由来の電気とすることができる、非化石証書の購入代行などを行っています。非化石証書を利用することで、企業の電気使用に伴うCO2排出量を削減することができます。非化石証書の購入量などお客様のニーズにあった再エネの導入方法をご提案いたします。

■FPSの主な再エネ関連サービス gREenオプション
電力メニューとセットで非化石証書を調達し、CO2排出量を削減するサービス(詳細はこちら
非化石証書購入代行
FPSが非化石証書を代理購入するサービス(詳細はこちら
コーポレートPPA
10年以上蓄積した需給管理のオペレーションにより、オンサイトPPAの余剰電力を利用したオフサイトPPAなど柔軟な再エネスキームをご提供するサービス(詳細はこちら
再エネアグリゲーション
再エネを導入した際の煩雑な需給管理や手続き等の業務をFPSが代行するサービス(詳細はこちら

FPSは、専任の営業担当者と高度な需給管理ノウハウを活かし、企業の再エネ導入をサポートします。さらに、柔軟な再エネメニューをご用意しており、上記サービスに加え、コーポレートPPAなどお客様のニーズに最適なオーダーメイドの再エネスキームをご提供します。

非化石証書の購入についてなど再エネ導入に関するご相談は、ぜひFPSにお任せください。
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